和菓子街道 東海道 池鯉鮒

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八橋にかきつばた咲く池鯉鮒の里

 愛知県知立市。鯉や鮒が泳ぐ池や沼地が多かったことから、昔は池鯉鮒とも書かれたこの地は、慶長6年(1601)の東海道制定以前は、街道から外れてはいたものの、古くから城砦を擁し、木綿市や馬市の立つ日には賑わいを見せた要地だった。

 それまで鎌倉街道と呼ばれる山中の道を通っていた東海道は、街道の整備に伴い、より平坦な池鯉鮒を通る道に移された。以来、池鯉鮒も宿場町として発展していった。

 昔のままの姿の来迎寺一里塚や、かつて馬市が立った辺りには今も残る松並木などが、旅人が盛んに往来した頃の街道を偲ばせる。

 また、市内の三河八橋は古くからかきつばたの名勝地として知られ、平安歌人の在原業平が「かきつばた」の文字を句頭に詠み込んだ「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」という歌はあまりにも有名である。毎年5月には業平の木像を安置した無量寿寺でかきつばた祭が開催され、八橋を配した境内の池はかきつばたの紫で美しく染まる。

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その他のおいしい立ち寄り情報

都築屋美廣
  菓子: 上生菓子(各種1個100円~)他
  住所: 愛知県知立市本町本41
  電話: 0566-81-0476
  営業時間: 9:00~19:30
  定休日: 火曜日 (不定休あり)

 池鯉鮒宿の中心辺り、本町に古色蒼然とした店がある。 屋根には、「池鯉鮒銘菓」と書かれた大きな看板。街道歩きをしていても、もつい足を止めたくなるような一際目を引く存在だが、実際にこの店に入ってみたという話はあまり聞かない。私が街道を歩いた時も、実は店が閉まっていて、どんなお菓子を売っているのか確認することができなかった。そんなわけで、後日、開店していることを確認して、噂の「謎の店」に潜入してみた。

 間口の広い店内に入ると、赤い木箱に並べられた数種類の菓子が入ったガラスケースが入り口すぐのところにあり、その奥に上がりかまち。「こんにちは」と声をかけると、薄暗い土間の奥から年配の女性が姿を現した。療養中という四代目当主の女将さんだ。店の名前は都築屋、明治8年(1875)創業の和菓子屋だ。店は現在、彼女と五代目が切り盛りしているらしい。

 明治時代創業の店ではあるが、都築屋の建物自体は、江戸時代に建てられたものである。 都築屋の隣には本町郵便局があるが、実は江戸時代には都築屋と郵便局の建っている土地には、柳屋という旅籠が店を構えていたのだという。明治になって宿駅制度が終わり、柳屋も廃業してしまった。そこで、都築屋の初代が柳屋の建物半分を土地ごと購入し、菓子屋を始めたのだ。都築屋も充分大きな建物であることから、その倍はあったという柳屋はさぞ大きな旅籠だったのだろう。

 そんな昔話を女将さんから一通り聞いてから、気になる「池鯉鮒銘菓」なるものはどれか尋ねたところ、意外な答えが返ってきた。

 「いえね、特に銘菓なんてものはないんですよ」(女将さん)

 確かに都築屋にはその昔、「池鯉鮒饅頭」なる酒元を使った饅頭があったのだ。しかし、昭和34年(1959)9月26日に東海地方を襲った伊勢湾台風の被害でその饅頭を作るための特製ほうろう等の器具が損失し、以来、作るのを止めてしまったのだという。だから、「池鯉鮒銘菓」は今はもう蘇ることはないのだ、と。それにしても、江戸時代の建物自体は少々の修繕を要したものの倒壊することがなかったのだから大したものだ。

 店内には、「知立名産 羅久がん」と書かれた木看板もあるが、女将さん曰く「それも別に、名産というわけでもないんですけどね(笑)」とのこと。現在は上生菓子の他に神社仏閣などから注文される落雁(御紋菓)などを作っており、強いて言えばそれらが「知立名産 羅久がん」の名残だという。

 古い町のに昔からずっとある和菓子屋さん。それが都築屋だ。大きな看板は昔のまま残しているものの、都築屋の「池鯉鮒銘菓」は今は幻となってしまった。名物や銘菓などというのは、後で誰かが決めるのが本来の姿なのだから。「謎の店」の謎が解け、買い求めてきた季節の上生菓子(餡入り栗きんとん、道明寺菊、道明寺銀杏)を頂きながら、そんな結論に至って満足したのだった。



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小松屋本家
  菓子: あんまき(1本150円)
  住所: 愛知県知立市西町西83
  電話: 0566-81-0239
  営業時間: 8:30~20:00
  定休日: 火曜日

 愛知に生まれ育って、「知立の大あんまき」を知らないという人はあまりいないのではないだろうか。それくらい、「大あんまき」は愛知では名の通った知立名物なのだ。しかし、愛知生まれの愛知育ちにも拘らず、子供の頃の私は大あんまきがあまり好きではなかった。もっと正直に白状すると、二度三度ばかり食べても「おいしい」と思ったことがなかったのだ。以来、「大あんまきは苦手」と決めつけて、自宅に大あんまきがあっても食べた試しがなかった。なぜこれが名物と呼ばれるのか、疑問すら感じたものだった。ところが、子供の頃に勝手に作ったこの偏見を打ち破ったのが、「小松屋本家」の「あんまき」だったのだ。

 池鯉鮒宿から少し先、知立神社の参道入口にある「知立名物あんまき」の元祖を名乗る小松屋がある。小松屋は元々、街道筋で旅人に「二つ折り」なる菓子をお茶請けとして出す茶店だった。二つ折りは、その名の通り、小麦粉ダネを焼き、二つに折り重ねただけの素朴な菓子で、いわば和製パンケーキのようなものだったという。それでは味気ないと、中に餡を挟んで出してみたところ評判になった。餡を入れて巻いたので「あんまき」という名前がつけられたわけだが、二つ折り同様、極めて分かり易い命名である。

 小松屋の初代当主・神谷為吉(当時25歳)がこの「あんまき」を考案したのが明治22年(1889)で、同店ではこの年をあんまき屋としての創業年としている。 一説には、江戸時代中期には既に、大豆を使った甘味のない小麦粉ダネの菓子があり、明治期になってそれを改良したものが現代の「あんまき」ないしは「大あんまき」とも言われている。少なくとも現在4軒あるという「大あんまき」「あんまき」屋の中でも、最も古い店がこの小松屋だ(かつては知立神社周辺に数軒のあんまき屋があったという)。そして、今も昔と変わらず手焼きで作っているのも、ここだけなのである。

 「うちでは“大あんまき”とは言わず、“あんまき”と呼んでいます。元々、“大あんまき”というのは、藤田屋さん(チェーン展開している大あんまき屋)がつけた呼び名です。他のお店のことは分かりませんが、少なくともうちのあんまきはそんなに大きなものでもありませんしね。あえて冠をつける時は、上製あんまきと言っています」とは、五代目の若女将の談。

 小松屋のあんまきは、機械や型などは一切使わない完全な手造りだ。鉄板の上に小麦粉とほんの少量のふくらし粉を加えて砂糖などで甘味をつけた生地を流し、表面にぷくぷくと大きな泡ができてきたら、餡を乗せてくるっと一巻き。木箱に並べて、熱した屋号の焼印を捺していく。

 店内には甘い臭いが立ち込めているが、焼印を捺すとそこにほのかに香ばしい焦げの香りが加わる。こんがりとキツネ色に焼けたあんまきは、いかにもそそられるルックスだ。「焼きすぎると、タヌキ色になってしまいます。このキツネ色が理想なんですよ」(若女将)

 焼きたてを頂くと、表面がパリっとしていて、中はふっくら。皮は他店よりも若干厚みがあり、小麦粉のキレイな味がする。中の粒餡はしっかりとした甘味で、おやつはこうでなくちゃ、と思わせるだけの説得力のあるものだ(白餡も選べる)。

 これが本当のあんまきなのか。今まで知っていたのは、もっと焼き色が薄く、少ない小麦粉を無理やり膨らませるためのベーキングパウダーだか重曹だかの臭いがかすかにして、へにゃっとした大あんまきだった。子供の頃からの○十年を取り返したいくらいだ。

 「ご自宅に持ち帰って冷めてしまった場合は、レンジで軽く温めて(40秒ほど)、トースターで3分くらい焼いて下さい」と、若女将。実際にその通りにしてみると、焼きたてとほぼ、同じ食感と味わいが戻ってきた。フライパンでかりっと焼くのもお薦めだ。とはいえ、美味しいものは冷めても美味しいと決まっている。小松屋のあんまきも、冷めてもっちり感を増した皮と餡がよく馴染んで、熱々の時とはまた違った味を楽しむことができた。

 「知立の大あんまき」は有名だが、知立に来たらば、是非、小松屋本家の「あんまき」を試してもらいたい。「名物にうまいものなし」とは言わせません。

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