和菓子街道 東海道 保土ヶ谷

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難所権太坂の手前は「お泊りはよい」保土ヶ谷の宿

 神奈川宿から先、静かな丘の上の住宅街を経て進めば、打って変わって賑やかな松原商店街に出る。商店街の入口は大山道との追分だ。安売りが評判で年中人出の多いこの商店街を抜けると、やがて帷子橋が見えてくる。

 広重は保土ヶ谷宿の題材として帷子橋を選んでいるが、帷子川の改修などで川筋が変わったため、広重の頃とは橋も川そのものも変わっている。その代わり、今は天王町駅前に旧帷子橋をイメージした公園が整備されている。ここから、保土ヶ谷宿まではすぐだ。

 「お泊まりはよい程谷ととめ女、戸塚前(=とっつかまえて)は離ささざりけり」は、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』の中で弥次喜多が詠んだ狂歌。このように、保土ヶ谷の旅籠の留女が熱心に旅人を呼び込む姿が見られたという。

 しかし、保土ヶ谷宿は、前の神奈川宿からわずか一里半の距離。神奈川の台の茶屋や料亭でしっかり遊んできた江戸時代の旅人は、保土ヶ谷には長居せず、この先の戸塚に急いで進みたがった。足腰の弱い女性や年寄りは保土ヶ谷で初日を終え、健脚の旅人の多くはこの先の戸塚まで歩を進めたようだ。

 往時の面影はほどんど残っていない保土ヶ谷の街並みを進むが、途中、「金沢横町」に古びた4基の道標が建っているのを見ることができる。ここが、鎌倉や金沢文庫へと伸びている金沢道の分岐点だ。その先、線路を渡ると軽部本陣跡。敷地の一部には今でも軽部家の人々が住んでいるらしく、どこか生活感がある。

 今は名残もなくなってしまった3軒の脇本陣跡などを確認して、国道一号線に沿って進む。その後、一旦国道から逸れて細い旧道に入る。その先が、いよいよ東海道最初の難所と言われた権太坂だ。

 その昔、この地を通りかかった旅人が、野良仕事をしていた老人に坂の名を問うたところ、老人は自分の名前を聞かれたと勘違いし、「おら、権太だぁ」と答えた、というのが権太坂の名の由来と言われている。今では年始の箱根駅伝ですっかりお馴染みの急坂である。

 今でこそ昔よりずっと緩やかになったらしいが、それでもやはり勾配は急だ。ぐいぐいと上っていくにつれ、周辺の建物がどんどん下方になっていく様はなんだか気持ちがいい。それにしても坂道は長く、一瞬平坦になったかと思っても、まだまだ続く。昔、この坂で行き倒れになる人々が多く、上りきった辺り(実際にはY字に別の道を少々下ったところ)には、無念の亡骸を葬った「投込塚」がある。

 ちなみに、天保(1830~1843)の終わり頃から、この権太坂の途中で「ごん太鮓」という寿司が売られていたそう。木茸や干瓢を刻んで混ぜ合わせた飯を油揚げに詰めた稲荷寿司で、旅人に評判が良かったとか。

 この「道中いなり」と、保土ヶ谷宿本陣の軽部清兵衛から名をとった太巻き寿司「清兵衛巻」をセットにした「道中振分け弁当」(1折500円)が人気だ(上の写真は「道中振分け弁当」と「道中茶きん」1個360円)。

 さて、先に進もう。この権太坂を上り詰めた辺りが丁度、武蔵と相模の国境になる。その目印に欅の木が植えられたことから、境木の地名があり、下り坂の始まる前には「境木地蔵」が安置されている。その手前の旧道沿いに黒い板塀を廻らせた立派な屋敷があるが、この家はかつてこの地の名物だったという「牡丹餅(ぼたもち)」を売っていた若林家だ。

 いつしか名物の牡丹餅は姿を消したが、近くの境木商店街にある菓匠栗山(保土ヶ谷区境木本町1-33、電話:045-713-2515)が東海道400年祭の際にこれを復活させた。もっとも、平成18年度現在、栗山の牡丹餅は目下「リニューアル中」で一時的に販売を休止している。近々、新しく生まれ変わる予定の牡丹餅を楽しみに待ちたい。(写真はこれまでの「牡丹餅」。お店の許可を得てお借りしています)

 この辺りは最近の開発で新しい道ができているが、旧東海道は地蔵堂の前を左折して焼餅坂を下る。さらに品濃坂を少し上ってしばらくゆくと、細い道を挟んで左右にこんもりとした塚が見えてくる。これが、品濃一里塚。江戸時代当時とほぼ変わらぬ形で残っている貴重な遺産である。榎がびっしりと根を伸ばして塚を覆っており、昼なお暗い。

 この先を行けば、ほどなくして東戸塚駅前に出る。この辺りでは、かつては街道に影をさしていたであろう木々に代わって、今は聳え立つマンション群が長い影を落としている。

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kuriyama-botamochi.jpg(お菓子の写真はクリックすると大きくなります)

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その他のおいしい立ち寄り情報

宿場そば 桑名屋
  料理: 雪割りそば(1365円)
       本陣(蕎麦、刺身、煮物、天婦羅、茶碗蒸しなどがつく、3150円)他
  住所: 神奈川県横浜市保土ヶ谷区岩井町21
  電話: 045-331-0233
  営業時間: 11:00~22:00
  定休日: 木曜日
  URL: http://blog.livedoor.jp/kuwanaya/

 保土ヶ谷駅西口、旧東海道より一筋線路寄りの道へ入ってすぐのところに建つ蕎麦屋「桑名屋」。その名が示す通り、初代の近藤初次郎が三重県の桑名から文明開化を機にこの地に移り住んできたのだという。創業は明治19年(1886)ということになっているが、それは戸籍上、この地に転入した年であり、実際にはそれより少し前から蕎麦屋を開いていたのではないかと、四代目に当たる現当主・近藤博昭さんの女将さんは言う。

 木造二階家のいかにも古色蒼然とした佇まいだが、実はこの建物は比較的新しく、平成3年に新装開店したものだという。

「それまではごくありふれた店構えだったのですが、せっかく保土ヶ谷という宿場町にあるのだからと、思い切って建て替えたのです」

と、女将さん。

 商業地区に指定されているこの辺りでは、店を新築したり改築する際には鉄筋コンクリート製のビルを建てることが義務付けられている。それを承知で、「テントで隠しながら木造の店を建てた」というから、大した度胸である。いや、情熱というべきか。

「もちろん今では行政も納得してくれていますけど、建てている間は大工さんの方が冷や冷やしていましたよ(笑)」

 桑名屋の建物は、釘を1本も使わずに建てられた江戸深川の船宿を再現したもの。木材こそ新しいものだが、「新しさ」をまるで感じさせない造りになっているからおもしろい。本物の漆喰を使った壁、薄暗い店内や板張りの縁、二階への急な階段などが細かに再現され、雰囲気は抜群だ。

 そもそも、ご主人がこんな時代がかった建物を建てたのには、ワケがある。野球三昧の人生を歩んでいたご主人が、先代の急逝を受けて桑名屋を継いだのは若干二十歳の時だった。それまで蕎麦屋という商売にさして興味もなかったが、横浜市中区にある大田屋の主人から蕎麦打ちの技術を徹底指導され、また、保土ヶ谷宿の歴史研究グループとの出会いから歴史に興味を持つようになり、考え方が一変したという。

 その傍ら、店を経営するからには「企業の独自性」が大事だということを学んだご主人。調べてみると、広重の保土ヶ谷宿の絵には、帷子橋の袂に「二八」の看板を掲げた蕎麦屋が描かれている。しかも、広重の『東海道五十三次』シリーズで蕎麦屋が描かれているのはここだけ。この事実に勢いづいたご主人は、早々に「宿場の蕎麦屋」を作り上げることを決意。ついでに、建物も江戸時代を感じさせるものに変えてしまおうと思い立ったというわけだ。

 建物が本格的なら、肝心の蕎麦の味もまた本格的。「二八」どころか、より香りの高い九割や十割蕎麦にこだわり、毎日手打ちをしている。コシのある蕎麦は歯ごたえもよく、噛むほどに鼻腔を蕎麦の香りが満たす。蕎麦粉は、桑名屋とほぼ同じ頃に創業したという帷子町の製粉所などから仕入れている。創業以来の、長いお付き合いなのだそう。かつおだしの効いたつゆは辛めだが、かといってしょっぱいわけでもなく、むしろほんのり甘みが口に残る。

 基本の蕎麦(2段700円)以外にもメニューは豊富で、セットメニューには「本陣」「問屋場」「高札場」など、宿場に因んだ名がつけられている。保土ヶ谷宿にある「金沢横町」から名をとったセットにつく天むすは、ミニチュアの駕籠に乗せて出すなど、ちょっとしたアイディアが微笑ましい。食前酒として出された梅酒も、「金沢横町」の道標のひとつに刻まれた「程ヶ谷の 枝道曲がれ 梅の花」の句に因んでいるのだとか。実に徹底したこだわりぶりだ。

 こだわりと言えば、蕎麦すしの重箱がまたすごい。東海道五十三次の宿場と日本橋、三條大橋の全55景を、蒔絵で1枚の蓋に1景ずつ描いた特注の重箱だ。自分に運ばれてくるのがどの宿場の絵か、わくわくしてしまう。

 ちなみに、上の写真は「雪割り蕎麦」。宿場には関係ないが、早春に咲く雪割り草をイメージした花形の籠に、5種類の変わり蕎麦を配した小鉢を収めたもので、色々な味を楽しみたい、かといって天婦羅や刺身がついたセットメニューでは重い、という人にお薦めだ。

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kuwanaya-yukiwari.JPG(料理の写真はクリックすると大きくなります)