和菓子街道 東海道 掛川 もちや

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はんなり、たおやかな振袖餅

 掛川宿の入口、葛川の地の馬喰橋を渡ってすぐ西にある「もちや」という店。「振袖餅」なる餅菓子がたいそうおいしいという評判で、掛川に入るのが楽しみだったのだ。

 もちやというからには餅屋なのだろうと思いきや、どうみても食品店というか、小型のスーパーだ。駐車場に掲げられた木看板には古めかしい文字で「もちや」と書かれており、老舗らしき装いを保っている。店の軒先にも「振袖餅」と書かれた紺暖簾がかけられていて、店も塗籠造り風に装っているが、硝子越しに言える店内には、日用品や食品が置いてあるのが見えるばかりだ。

 なんとなく店に入るのを躊躇していると、店から買物袋を下げた近所の人らしいおばさんが出てきたので、思わず「ここは振袖餅のもちやさんでしょうか?」と分かりきったことを聞いてしまった。すると彼女はすかさず袋から透明パックを取り出して、「そうですよ、これが振袖餅」と見せてくれた。なるほど、白い餅のようなものが彼女の指の間から見える。おばさんはどうやら振袖餅の大ファンらしく、自分のことのように嬉しそうに話し始めた。

 「とにかくね、このお餅、すっごく柔らかいんですよぉ。名前がまたいいですよねぇ。振袖だなんて、はんなりというか、素敵じゃないですかぁ。午前中に買わないとなくなっちゃうこともあるんですよ」と、ベタ褒めである。掛川の外れで「はんなり」という京言葉が飛び出すとは思いもよらなかったが、確かに「振袖餅」とは美しい名だ。おばさんが言うように袖振餅が「ふわっと柔らかくておいしい」という噂は以前から耳にしていた。高まる期待を抑えつつ、どう見てもスーパーなお店の中に入った。

 外観の印象とたがわず、店内はいかにも地域密着型のスーパーで、野菜やらインスタント麺やら惣菜やらがごちゃごちゃっと置かれている。本当にここに振袖餅はあるのだろうかと、改めて不安になる。恐る恐る店のおばさんに聞いてみた。

 「これです」と彼女が指した方を見ると、プラスティックのパックに詰められた白と黄粉の大振りな餅が並んでいる。これが、はんなりおばさん大絶賛の振袖餅か。正直なところ、店が店だし、パックがパックだしで、不安は相変わらず払拭できず。しかし、何でも見た目で判断するべからずと、気を取り直して親切そうな売り子のおばさんに色々お話を伺ってみた。

 もちやの創業はおよそ200年前。現在は7代目の当主(鈴木氏)がこのスーパーを切り盛りしながら、掛川名物の振袖餅を作っている。元々は茶店だったというこの店、その名の通り長年、振袖餅を売る餅屋だったのだが、先代の頃からスーパー形式の店に転向したのだという。時代の流れもあり、振袖餅だけでは世渡りが難しくなっていたのだ。確かにここは駅から遠いし、バスの便は悪いしで、車で行くか、街道を歩いて行くかといった不便な場所である(後者はかなり少数派だろう)。8代目となる予定の息子さんは現在、よそで菓子作りの修行を積んでいるという。

 その昔、この近くにあった諸病平癒のご利益で知られた観音様への参拝者の間で土産として評判を集めていたという振袖餅は、『東海道中膝栗毛』の十辺舎一九も京に向かう途中で買い求めたと伝えられている。名前の由来は、その形状にあるという。女性の振袖のように長く、大きいということらしい。しかしこれはあくまで口伝であり、実際には既に資料は損失しており、確かなことは分かっていないようだ。現在は澱粉をまぶした白い餅と、黄粉をまぶした蓬入りの餅の2種類があるが、おそらく江戸の頃には白い餅だけだったのではないだろうか。

 後に掛川の観光案内所の女性から話を伺ったところ、彼女のご主人が子供の頃には、振袖餅はもっとずっと大きく、長かったのだという。今でも長さ10センチ近くはあろうか、充分大きいが、これ以上大きくては手に取るのも難しそうで、とても品良くなど食べれそうにない。身にまとってみると重くて動き辛いのが振袖だが、かつてはこの餅も、ある意味、その名の通りだったのだろう。

 それにしてもこのお餅、噂通り確かに柔らかい。いかにも手作りらしく、餅のキメはどちらかというと荒めに思えたが、それでもとろんと口の中でとろけてなくなってしまうほど柔らかい。中の餡とほぼ同じ柔らかさなのだ。このどこまでも柔らかな餅で、少し塩味の効いたさっぱりした餡をどっさり包んである。餅は柔らかくあるべき、そういう人にはたまらないあんこ餅である。

 しっかりとした歯ごたえの金谷もちや(金谷のページ参照)の「袖振餅」とは全くの別物。名前はそっくりだが、ここまで違うものかと、感じ入ってしまうほどだ。どちらが本家だとか本物だとかいう話は、この「振袖餅」と「袖振餅」には関係なさそうだ。

 振袖餅の餅はもち米100%、添加物も入っていないため、もちろん日持ちはしない。よって、駅のお土産売り場などに出すこともできない。この柔らかさを追求し続けるために、スーパーに方向転換してでも、昔と変わらぬ場所で店を守ってくれている鈴木さんに感謝である。

 また、馬喰橋にちなんで近年作るようになったという「馬喰だんご」もお薦め。しこしことした歯ごたえの上新粉の団子を包んでいるのは、葛の里らしく本葛でぷるんと固めたタレ。甘すぎず、辛すぎず、あっさりとした味だ。

 この他、ショーケースには常時、数種類の手作り菓子が並べられており、和菓子屋としての健在ぶりは見て取れる。未来の八代目も菓子作り修行中とのことで、見た目はスーパーでも、気持ちの上では200年変わることない街道沿いの餅菓子屋だ。

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店舗情報

もちや
  菓子: 振袖餅(1個110円)、馬喰だんご(1本80円)他
  住所: 静岡県掛川市葛川228-1
  電話: 0537-22-4833
  営業時間: 9:00~19:00
  定休日: 水曜日、第3日曜日