和菓子街道 東海道 島田 清水屋

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不昧公の助言は今も生きている

 以前、母や妹とこの辺りを旅した時、清水屋に立ち寄って小まん頭を一袋買ったことがあった。「蓬莱橋の袂で食べよう」と言い合ってタクシーに乗った。しかし、朱色の袋に入った小まん頭があまりにも良い香りで誘惑するので、食いしん坊3人は我慢し切れずすぐに袋を開けてしまい、橋に着くまでにほとんど食べ終わっていた。

 我が家の人々はその時以来、この小粒の酒蒸し饅頭の虜になってしまった。清水屋の小まん頭を買って土産にすると、我が家での私の点数が上がるので、島田の近くに行く機会があると必ず買うようにしている。そんなわけで、歩いて島田に辿り着いたこの日も、何度目かで清水屋を訪れることにした。街道から外れて駅方面に向かう。清水屋の前に立つと、饅頭を蒸す甘い香りがふわっと漂ってきた。

 清水屋の小まん頭が生まれたのは、今から280年ほど前の享保6年(1721)のこと。五代目当主の伝左衛門が、島田宿に長逗留していた紀州浪人の置塩露庵から甘酒皮の饅頭作りを伝授された。

 当初は普通の大きさだったというこの饅頭だが、参勤交代でこの地を通りかかった松江の茶人大名・松平不昧公の提言で、直径一寸ばかりの一口サイズになった。さすが不昧公、目のつけどころが違うといったところか、元々味が良いことで評判だったこの饅頭が、以来、東海道一と称されるまでに名を高めた。

 代々伝わる米麹を練り込んだ皮で餡を包んで蒸し上げたこの小粒饅頭の味を受け継いでいるのは、十三代目と十四代目の菓子司。来る日も来る日も、饅頭を作り続けている。朝作る饅頭はその日のうちに売り切ってしまう。もちろん、添加物の類は一切使用していないため、一晩置くと風味が堅くなってしまう。実際、初めて口にした瞬間、「この饅頭には旅をさせてはいけない」と確信した。

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matsudaira-fumai.jpg松平不昧像(島根県立美術館提供)

 口に近づけただけで、ふわっと酒素が香る。その香りは、口に含むとすぐに、喉や鼻の奥にまで伝わっていく。ふわっと、それでいてしっかりとハリのある表面の皮は、キメが細かく、ほんのり甘い。皮は厚めで、中に親指大ほどの餡が詰まっている。皮が主役、そんな饅頭である。餡もしつこい甘みではなく、大きさも大きさだけに、一個二個と手が伸びてしまう。

 饅頭を詰めた朱色の紙袋は、時間が経つごとに湿気を帯びてくる。自宅でサランラップをかけておいても、すぐにラップの内側が蒸気で曇ってくるのが分かる。この饅頭、「生きて」いるのだ。その日のうちにとは言わず、できることなら、買ってからすぐに頂きたいところだ。饅頭に旅をさせないのであれば、自分で旅してここまでやってくるしかない。まさに、旅の味である。

 十五代目となる未来の清水屋当主は、小学4年生(2004年当時)。「たぶん、継いでくれると思うんですけどねぇ」と、嬉しそうに笑みをこぼす女将さん。ランドセルのおちびさんの小さな背中に、時代を超えた街道の名物が託されている。

 清水屋のもうひとつの名物は、明治の頃から製造されているという黒大奴。日本三大奇祭のひとつである島田の帯祭りの行列に欠かせない大奴にちなんで作られた菓子だ。昆布を練り込んだ羊羹で漉し餡を包んだ、これまた小粒、一口大のお菓子だ。

 つるんと光る黒に近い褐色の羊羹の表面に、数粒の芥子の実が乗せられている。なんとも品のある姿である。一見、堅いのかなと思ってしまうが、口に入れてみると意外に柔らかい。羊羹生地に練りこんである昆布独特のうまみが舌の上で広がる。こちらも、お茶によく合う秀作である。



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店舗情報

清水屋
  菓子: 小まん頭(1個42円、1袋9個入420円~)、黒大奴(1箱15個入840円~)他
  住所: 静岡県島田市本通り2-5-5
  電話: 0547-37-2542
  営業時間: 8:30~20:00
  定休日: なし(水曜日のみ小まん頭の製造は休み)
  URL: http://www5.ocn.ne.jp/~komanjyu/