和菓子街道 東海道 府中3

府中宿の続き・・・

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その他のおいしい立ち寄り情報

三笑亭
 本店
  料理: 昼…月替わり季節の限定会席(3675円、1月・12月を除く)、ステーキ定食(4851円)他
       夜…すきやき/しゃぶしゃぶ(各4851円~)他
 レストラン
  料理: オムハヤシ(1575円)、お手軽ランチ(1050円)他
  住所: 静岡市葵区両替町2-2-2
  電話: 054-252-2136
  営業時間: 11:00~14:00(土曜・祝日~14:30)、17:00~21:00
  定休日: 日曜日(12月第2・4日曜日は営業)

 府中宿札の辻の次を南に折れ、次の信号のある交差点で左折して東海道を少し離れてしばらくゆくと、大きな精肉店があり、続いて白壁の塀に囲まれたどっしりとした構えの和風建築の料亭が見えてくる。精肉店も料亭も、共に店名は三笑亭。明治中頃の創業という老舗だ。

 店名は、東洋画の画題として頻繁に使われる故事「虎渓三笑」が由来。晋代の中国に生きた高僧・慧遠は、隠居地であった盧山近くの虎渓と呼ばれる谷の橋を日ごろ渡らないようにしていた。ところがある日、彼を訪ねてきた友人の道士・陸修静と儒者・陶淵明を見送った際、話に夢中になって知らず知らず虎渓を渡ってしまった。虎の吠える声を聞いてようやくそれに気付き、賢者3人、揃って大笑いをした。

 この故事にあやかり、山あり谷ありの商売であっても、豊かな心で客をもてなし、笑顔で暮らそう、そういった思いが三笑亭という店名に込められているのだそう。創業当初は鰻料理屋であったが、時の当主がその頃流行していた牛鍋の魅力にとりつかれ、牛鍋屋に鞍替え。同時に精肉店も開業したということだ。現在の経営者は四代目である。

 広々とした土間のある玄関に入ると、最初に迎えてくれるのは真っ黒な招き猫の群れ。そう、大きい物から小さいものまで、まさに群れなのだ。それでも昔はもっとたくさんあったそうだが、古いものから順番に欲しいという人に譲っていくうちに、減ってしまったのだそう。今はこの黒招きを作っている焼き物屋さんがないため、新しいものが入ってこない。そのため、もう欲しいとお願いしても譲ってはもらえないようだ。残念。

 いかにも老舗らしい店構えだが、建物そのものは50年ほど前に建てたものらしい。それでも、建築道楽だった先代のこだわりで、欅材を使った階段に松の一枚板を使った廊下、見事な欄間や美しい塗りを施した襖など、実に贅沢な造りだ。

 精肉店も経営しているということで、こちらの自慢はなんと言ってもお肉。特に牛鍋時代の流れを汲む「すきやき」には、黒毛和牛の霜降り肉を使用。他にもしゃぶしゃぶやステーキといった料理に外れは一切ない。

 また、女性の間で人気が高いのが、四季折々の食材を盛り込んだ「月替わり季節の限定会席」。料理の内容や値段も魅力的だが、更にこの料理を頂く際には、季節によってテーマを変えた装いの部屋が用意される。特に、2月中の「雛会席」の際には、女将の実家に伝えられてきた歴代の雛人形の数々が展示された部屋で料理を楽しむことができる。なんとも華やかな演出ではないか。これが目当てで毎年足を運ぶ人も好くなくないとか。

また、同じ敷地内、料亭部門の左隣には肩肘張らずに予約なしで気軽に楽しめるレストランがある。実は今回の目当ては、むしろこちらの方だった。「オムハヤシ」は、明治の頃から伝わる秘伝のレシピを基に作られている。卵を3個使ってふんわりと仕上げたオムレットを、玉ねぎ、ハムという素朴な具材を炒めてバターとケチャップで味付けしたライスの上に乗せ、上からじっくり煮込んだデミグラスソースがたっぷりとかけられている。

 レストラン部門であっても使う肉の素材は料亭部門と同じもの。様々なスパイスで香り付けされたデミグラスソースは、ワインできりっと引き締まった味になっている。大胆にオムライスの上にごろごろと転がっている具材の肉の塊は、スプーンで簡単に切れる柔らかさ。中のライスだけで食べても、とろとろの卵とライスを一緒に食べても、デミグラスソースと絡めて食べても、またデミグラスソースだけで食べても…つまりどういう食べ方をしても大満足できるおいしさなのだ。

 強いて難点を挙げるならば、その量。とにかく多すぎる!とても女性ひとりで食べきれる量ではない。2人前以上はありそうなボリュームだ。もっとも、全て食べてしまった後でそう思ったのだが…。明治以来変わらぬ味の名物オムハヤシ、是非、味わってもらいたい一皿だ。

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sanshotei-omhayashi.JPG(料理の写真をクリックすると大きくなります)

阿なごや
  料理: あなご丼(1500円~)、うな丼(1450円~)
       日替わりおすすめ定食(900円)、大名弁当(1000円)他
  住所: 静岡県静岡市葵区両替町1-7-10
  電話: 054-254-8361
  営業時間: 11:00~14:00、17:00~21:00
  定休日: 日曜日、祝日

 旧東海道を札の辻で南西に折れて2筋ほど行くと、右手にファミリーレストラン「バーミヤン」がある。この角を右に入って少し行ったところにある「阿なごや(あなごや)」は、明治22年(1889)の創業以来、穴子と鰻を中心とした食事処としてこの地で営業を続けている。

 元々は新通りにある文久2年(1862)創業の「あなごや本店」の親戚筋で、暖簾分けして同じ名で店を開いた。しかし、驚いたことに、女将さんによると、明治半ばの創業であるにもかかわらず、あなごやの現在の当主はまだ二代目なのだとか。初代は健康に優れていたためか、随分長く板場に立ち続けていたようで、その血を受け継いだ二代目も元気いっぱいで、庖丁を握る腕は衰えを知らないようだ。

 店の入口はどことなくしっとりとした料理屋風で、2階も会席料理を振舞う座敷などが用意されているが、1階の食堂部分は至って庶民的。大衆食堂のような感覚で気軽に利用できる。メニューも穴子や鰻はもちろん、玉子丼から蕎麦、オムレツ、雑炊など、ジャンルを問わない。900円の日替わりおすすめ定食や、刺身・天婦羅・小鉢などがついて1000円という大名弁当もなかなかお得だ。そのせいか、食事時ともなると近場で働くサラリーマンや事業主らしい男性が続々と店にやってくる。

 私はというと、店名の由来ともなっている穴子を頂くことに。穴子は鰻よりも脂肪分が少なく、ボリューム感が少ないのではと勝手に推測して、あなご丼の上(1800円)をお願いしたが、的が外れた。これが、思いのほかボリューム満点だったのだ。ご飯の量もさることながら、その上にぎっしりと敷き詰めて乗せられた穴子の蒲焼も分厚く、大きいものだった。

 三河産の穴子は柔らかくふっくらと仕上げてあり、鰻の蒲焼と兼用だという家伝のタレでテリをつけてある。タレは甘さ控え目で、醤油味が際立っている感じ。穴子は鰻ほど脂がないため、身にタレがしっかりと染み込んでいるため、少々辛めのタレにも感じられるが、鰻同様にふりかける山椒がピリッと辛く、穴子の味を引き締めてくれる。少々辛めの阿なごやの穴子蒲焼は、酒の肴には最適ではないかと思われる。

 ちなみに、あなご丼には肝吸い、お新香、フルーツがつくが、肝吸いの肝は穴子のものではなく鰻の肝だ。女将さん曰く、穴子の肝を使うというのは、あまり聞いたことがないとのこと。確かに。また、食事の後はランチタイムのサービスでコーヒーも振舞ってくれる。

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anagoya2-anagodon.JPG(料理の写真をクリックすると大きくなります)

天峰
  料理: 和風定食(2280円)、天ぷら定食(880円~)、うな重(1380円)、蒲焼定食(2080円)他
  住所: 静岡県静岡市葵区駿河町6-3
  電話: 054-255-0131
  営業時間: 11:00~15:00、16:00~21:00
  定休日: 木曜日(月1回連休あり)

 映画館が建ち並ぶ七ぶらシネマ通りを抜けると、東海道はキッチン用品店の角を右折。この先は安倍川までほぼ真っ直ぐ行くことになるが、ここで右折しないで直進すると、すぐ先、道の左側に天峰という料理屋がある。「天」とつくからには天婦羅屋だろうと思って入ったが、果たしてそこは、天婦羅屋兼鰻屋兼その他色々、の店だった。

 創業は今から100年ほど前の明治後期の(1904)。現在は三代目のご主人とその弟さんとが板前仕事をこなしているという天峰だが、創業当初は鰻がメインの店だったという。そういえば、この少し手前の街道沿いにある天文本店も「天」がつくが当初は鰻屋だったっけ。そういうものかしら、と思いながらメニューを広げると、おあつらえ向きの料理があった。

 天婦羅、鰻の蒲焼、刺身などがつく「和風定食」。これなら、天峰の自慢の味が一度に楽しめる。天峰では、大井川河口近くの吉田産の鰻を自前の井戸水に放ってしめている。泥臭さが抜けた鰻はじっくりと、香ばしく焼き、タレをからめる。タレは創業以来注ぎ足し注ぎ足し使っているもので、しっかりとした濃い目の味。蒲焼にかける山椒は、実を炒ってすり鉢であたってつくるという自家製で、これが鰻の味をきりっと引き締めてくれる。

 天婦羅や海老2尾とキス、茄子や南瓜などの野菜で、セットメニューの中の天婦羅としては種類も数も多い。この天婦羅や刺身に使うのは、地元や三河産の新鮮な魚介類だ。やはり井戸水で炊いているというご飯や赤だし、小鉢(この日はモズク)を合わせると、結構なボリュームだ。

 この日は食堂風の1階で食事をしたが、2階はお座敷になっているようだ。また、店先には持ち帰りのコーナーもあり、串のついたままの鰻蒲焼や天婦羅などを販売している。鰻のタレももちろんあり、この味が好きで買い求めていくという人も多いとか。私が食事をする間にも、家庭への手土産なのか、何人ものサラリーマン風の人たちが持ち帰りコーナーを利用していた。

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tenmine-wafuteishoku.JPG(料理の写真をクリックすると大きくなります)

田尻屋総本家
  土産: わさび漬(78g300円~、樽入142g600円~)
  住所: 静岡県静岡市葵区新通1-3-2
  電話: 054-253-0740
  営業時間: 10:00~17:00(売り切れ次第閉店)
  定休日: なし(ただし年末年始は予約販売のみ)

 ピリッとした辛みが食材の味を引き締め、また魚などの臭み消しや毒消しにもなるわさび(山葵)。寿司などには欠かせない日本独自の香辛料だ。わさびと一口にいっても、その種類は様々。ステーキなどに添えるホースラディッシュも、西洋わさびと呼ばれる白いわさびだ。

 しかし、一般に寿司などに使うのは、「沢山葵」という日本独特の植物。山中、清らかな水の流れる谷沢や渓流に自生している。もっとも、沢山葵の中にも色々あって、例えば静岡産のものと長野産のものとでは、若干異なるらしい。

 わさびを日本人が食するようになったのは、1000年以上も前のこと。延喜18年(919)に当時の大医博士・深根輔仁がまとめた『本草和名』の中には、早くも「山葵」の文字が見えている。また、日本最初の辞典と言われる『倭名類聚抄』にも「山葵は補益食也」とその効用が記されており、そんな古い時代から既に健康食材とみなされていたことが分かる。

 室町時代にもなると、刺身を食べることが流行し始め、魚の味わいを引き立てるとしてわさびの人気が高まる。また、『和漢三才図会』には「そばの薬味に山葵は欠くべからず」とある。わさびは刺身や蕎麦になくてはならない香辛料として、室町時代には既に定着していたようだ。

 また、江戸時代の文化文政年間には、深川の「松が鮨」が鯖の臭み消しにわさびを用いるようになり、霊岸島の「寿司屋与兵衛」はわさびを使った握り寿司を考案。寿司とわさびの切っても切れぬ縁がここに始まった。

 わさびの歴史はここまでにして、そろそろ本題に。現在でも静岡の代表的な物産として人気の高い「わさび漬」の話である。わさび漬とは、酒粕に塩漬けしたわさびの根や茎を混ぜたもの。酒粕の芳醇な香りとわさびのツンとした辛さが絶妙に織り交ざって、酒の肴にぴったりだ。

 このわさび漬けを初めて作った「元祖」の店は今でも健在。府中宿の東海道筋、新通りに店を構える「田尻屋総本家」である。時は宝暦(1751~1763)、徳川九代将軍家重の頃のこと。志太郡和田村の田尻郷(現・焼津市の一部)から府中に出てきた利助という男が、府中の東海道筋、新通にあった田尻屋という味噌屋で奉公をしていた。

 名前からも察することができるとおり、田尻屋の主(稲森家)は利助と同郷・田尻の出身。あるいは、利助は田尻屋を頼って府中に出てきたのかもしれない。ちなみに、この田尻屋はカネジュウ食品(志太郡大井川町)という社名となって、現在も味噌などを製造している。

 さて、味噌屋に奉公した利助は、やがて独立して自身も味噌屋を始める。奉公先の屋号をもらったのか、あるいは郷里の偲んでつけた屋号なのか、利助もまた、自分の店を田尻屋と名づけた。利助は、店先で味噌を売るだけではなく、近隣の村々へ赴いては行商もしていた。

 そんなある日、安倍川上流の山奥にある有東木村へ出かけた時のこと。訪ねた先のとある農家で、わさびの茎や葉をぬか味噌にしたものがお茶請けとして出された。早速、一口食べてみると、これがなかなか旨かった。独特の風味と辛さなんとも言えぬ味わい。利助はすっかりその味に魅せられてしまった。

 自分でも同じようなもの、いやもっと旨いものは作れないかと思った利助は、早速わさびを持ち帰り、あれこれ工夫してぬか漬、味噌漬、酒粕漬など、様々なわさびの漬物を作ってみた。色々試した中でも、最も味が良かったのが酒粕漬だったため、これを自身の店の看板商品にすることに決めた。こうして、味噌屋ではなく、元祖わさび漬屋としての田尻屋が生まれたのだった。宝暦3年(1753)のことである。

 当初は有東木の山中の沢に自生する天然わさびを使用していたが、商売に使うとなると、天然ものの確保はなかなか難しくなっていった。しかし、二代目利助の頃になると、わさびの栽培が行なわれるようになった。二代目利助と産地の人々との協力の産物だ。こうしてわさびの増産が可能になったものの、わさび漬そのものは新通にある店舗で細々と売るばかりだった。

 そこで、三代目利助はわさび漬をより広く知ってもらうために、江戸で売り出すことにした。わさび漬を船に積んで清水港から江戸へ向けて送り、浅草で往来の人を呼び止めてはわさび漬を試食してもらった。これが江戸っ子に受けて、田尻屋のわさび漬は一躍有名に。江戸で名を広めた甲斐があって、府中の街道を行く参勤交代の大名や旅人も田尻屋に立ち寄って噂のわさび漬けを買い求めるようになったのだった。

 明治初年、四代目の三次郎の頃になると、酒樽から着想してわさび漬を小さな樽に詰めて売るようになった。次いで五代目の利三郎の頃には多くの奉公人を雇ってわさび漬の作り方を伝授。田尻屋で修行した者は後に独立し、それぞれわさび原料屋やわさび漬屋を開いている。

 その後、六代目定次郎、七代目金士郎を経て、現在の主は八代目蔵之助(本名は稲森良雄さん)である。今も街道筋の新通に店がある。売り場の半分を占めるかと思われる巨大な樽が置かれているが、これは昔実際にわさび漬を作った樽なのだそう。

田尻屋では今も有東木で栽培されるわさびを使用し、昔と変わらぬ製法でわさび漬けを手作りしている。作っているのはただ一種。他店のように甘口も辛口もなく、「わさび漬」のみだ。

 わさび漬は酒粕を熟成させるところから始まる。半年以上、樽で寝かせ、真っ白だった酒粕がクリーム色に変わってきたらわさびを混ぜる頃合だ。選別されたわさびの茎と根はよく洗い、薄い塩水に一晩漬けて浅い塩漬けにする。水気を切ってから熟成させた酒粕、塩、砂糖などと共に練り合わせる。これで完成。

 出来立て茎や根の色の緑色が鮮やかでいかにもおいしそうだが、実際の食べごろは2、3日置いてから。その方がわさびと酒粕がよく馴染み、辛さも若干和らぐのだそう。もちろん、ひりひり辛いのがお好み、あの独特の刺激、鼻にツーンとくるあの香りがなければわさび漬とはいえない、という人は作りたてを食べてもいっこうに構わないが。

 わさび漬の最もよい保存法は冷凍保存すること。完全に凍ってしまうことがないため、食べる分だけ出して後は冷凍しておけば、いつでも作りたての味と香りを保つことができるのだという(冷凍庫での賞味期限は1カ月、冷蔵庫なら半月)。ただし、言っておくがこれが本当に辛い。駅弁の中にちょろっと入っているわさび漬のごときを想像してもらっては困る。口に含んだ瞬間、カッと顔が紅潮し、汗が出た。これが、本物の味ということか。

 田尻屋では毎日、その日作ったものだけを販売している。もちろん全て手作りのため、量産もできない。だから、売り切れ次第閉店となる。また、他に出店もなく、ここだけで販売している。時には午前中に売り切れてしまうこともあるので、確実に手に入れたいという場合は、予約しておいた方がいいだろう。

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tajiriya-fifth.jpg田尻屋五代目利三郎(慶応三年撮影)。 田尻屋のしおりより
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田丸屋
  土産: 金印わさび漬 樽(155g 1050円~)、金印わさび漬 ダイヤカップ(70g 451円~)
       わさびアイス(1個250円)、わさび生チョコ(1箱1200円)他
  住所: 静岡県静岡市葵区紺屋町6-7
  電話: 054-254-1681
  営業時間: 10:00~19:00
  定休日: 元旦
  URL: http://www.tamaruya.co.jp/

 今となっては、駅の売店はもちろん、羽田空港などでも買い求めることができる静岡名産「わさび漬」。手広く展開しているのは、静岡駅前の紺屋町に本店を置く田尻屋だ。そもそも、明治時代に日本中に静岡のわさび漬を広めたのが、この店なのである。

 江戸時代からわさび漬けを造っている田尻屋で修行したと言われる田丸屋初代の望月虎吉が、旧東海道沿いの新通りに独立して漬物屋を開いたのが明治8年(1874)のこと。先見の明があった虎吉は、明治22年(1889)に東海道本線が開通し、静岡にも駅ができるとすぐ、一計を案じる。それは、駅の構内でわさび漬を販売しよう、というわけだ。

 駅での販売の準備を整えるためか、明治23年(1890)には現在地である紺屋町に移転。その後、明治28年(1895)にようやく駅構内でのわさび漬販売権を獲得する。それまでの大八車に乗せたわさび漬の量り売りをやめ、列車の窓から旅人に売り込む商法で販売を開始するやいなや、たちまち評判となり、旅人たちと共に田丸屋のわさび漬は全国に持ち帰られていった。

 また、明治35年(1902)になると、桶鮓の桶からヒントを得て、サワラ材で作った円形の化粧樽に詰めてわさび漬を売るようになった。これがまた受けて、田丸屋の名を一層高めたのだった。虎吉以来、現社長の望月惠一氏で四代目となる。

 土産物店のような駅前本店を覗くと、そこはまさにわさびワールド。山葵ドレッシングにわさびフランクフルト、わさび生チョコ、ふりかけ、煎餅などなど、ありとあらゆるわさび入り食品が並ぶ。ちょっと刺激的なお土産を探したい人にはお薦めの店だ。

 数あるわさび商品の中でも、やはり一番人気は定番の「金印わさび漬」。半年ほど熟成させた酒粕に、わさびの茎や根の塩漬けを混ぜた昔ながらの辛口わさび漬だ。他のわさび漬商品よりも根わさびの分量が多めのため、風味も辛みも一段と強い。この辛いのこそ酒の友と、そのまま食べてもよいし、ご飯にのせたり、納豆に混ぜたり、蒲鉾などに添えて食べてもよい。また、お店の人曰く、サンドイッチに挟んだりパスタに混ぜたりしてもおいしいのだそう。

 ちなみに、田丸屋で使用しているわさびは、富士山麓の朝霧高原のすぐ近くにある自社のわさび園で栽培されているもの。田丸屋には「観光課」まであり、わさび園の見学も可能になっている。

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平野屋
  土産: 甘鯛の干物(小1枚263円~)、興津鯛(1枚1万円~※要予約)
       鰻の干物(1470円)、干物(近海あじなど、各300円前後~)他
  住所: 静岡県静岡市葵区紺屋町3-6
  電話: 054-252-0940
  営業時間: 10:00~19:00
  定休日: 木曜日

 静岡市内の旧東海道は、呉服町の交差点で西に向かって右折するが、逆にここを左折して少し行った最初の十字路の角に「平野喜右衛門」という看板の店がある。県下でも名だたる干物の名店だ。いかにも古そうな名の店で、察する通り創業は江戸時代初期の延宝元年(1673)。この家の娘さんらしい店番の女性によると、延宝元年がこの家の記録に残る最も古い年号のため、その年を創業年としているのだという。

 江戸時代を通して魚屋だったという平野屋だが、四代ほど前から鮮魚ではなく干物の店となったという。太平洋戦争下と戦後はしばらくの間休業せざるを得ない状態だったが、後に復活。現在のビルを建てて、店を再開させた。店頭に並べられている干物は全て自家製で、しかもこのビルの屋上で干しているのだとか。

「駿府城の北側に武家屋敷が主に集中していて、反対の南側に当店のような商人の店が多くあったようです。この辺りは今も古い店やお宅が多いので、老舗という点ではうちなどは珍しくないかもしれませんね」

 と、若いながらよく勉強されている様子。表の看板には、店名の他にもこの店の名物という「興津鯛」の文字も大きく掲げられている。「元祖」と書かれているのは、少なくとも興津鯛を扱う店としてはこの辺りでは最も古い店だからだそう。女性の説明によると、興津鯛は漁師によって一本釣りされる全長30センチ以上の大きな甘鯛を開いて日干ししたもののこと。

 平野屋の興津鯛の評判は前々から聞いていたため、是非とも食してみたいと思い、注文することにした。毎日のように釣れるわけではないため、店頭に並べて販売しているものではない。注文してから1週間から10日はみて欲しいが、場合によってはそれ以上長くかかることもあるという。そこで、釣れて、干物が完成したら送ってもらうようにお願いしたところ、女性がぐさっと一言。

 「あの、ご了承頂きたいのですが、当店の興津鯛は1尾丸ごとのお買い上げになり、最低でも1万円からになります」

 それは、買えませぬ…。財布は相談にものってくれませぬ…。どうやら平野屋の興津鯛は正月や慶事の折に奮発して買うものであって、日ごろなんでもない時にむやみに食べるようなものではないらしい。途方に暮れていると、彼女は親切にもこう教えてくれた。

「こちらの甘鯛の干物でしたら、雰囲気は味わって頂けるかと思います。これも同様に当店で干しているものです」

 甘鯛には違いなく、同じように開きにして干したもの。ただ、1本釣りではなくその他の魚と一緒に網にかかる小ぶりの甘鯛で、脂ののりも興津鯛になる甘鯛ほどはない。もちろん、値段もぐんとお手ごろ。小さいものなら1枚250円ほどから買い求めることができる。あまりにも小さいのは寂し過ぎるので、この日店頭に並んでいた最も大きいもの(それでも420円)を包んでもらうことにした。なんと手ごろなんでしょう…。

 平野屋名物の興津鯛は泣く泣く諦めたものの、手に入れた420円の甘鯛の干物も決して捨てたものではない。そもそも干物というものは、魚の旨みがぎゅっと濃縮されているのだから、本来はまずくなりようがないのだが、平野屋のものはまた格別なのだ。程よい塩加減で、湿度も適度に残っており、焼いてもしっとりとしていておいしい。身は滑らかで、ふっくら。それでいて弾力もあり、噛むほどに旨みが出てくる。

 今回は興津鯛の代わりということで甘鯛を求めたが、他にもアジやカマス、イワシ、タチウオなどの干物や醤油干しがあり、いずれも人気が高い。ちょっと珍しいのは鰻の干物だが、お邪魔した当日には残念ながら店頭になかった。他にも旬の魚の干物が色々あるので、いつの季節に訪れてもおいしい収穫がありそうだ。

 また、平野屋製ではないが、特注で作ってもらっているという白魚干も有名。白魚干とは、いわゆる畳いわしのこと。関東で見かける一般的な畳いわしは紙のサイズで言えばA5くらい。しかし、平野屋で扱っている白魚干は倍ほど、つまりA4くらいの大判だ(通常のA5の小判もある)。こちらは贈答用に用いられることが多いのだとか。

 白魚干は生のイワシの稚魚を板状に並べて干したものであるため、そのまま食べると若干生臭さがある。海苔のように軽く焙って頂くのがよい。あるいは、吸い物の種にする場合は、椀の中で充分加熱されるため、そのまま入れていいとのこと。もちろん、香ばしく焙ってから椀種にしてもよいし、タコや胡瓜など合わせて酢の物にしてもよい。

 常温でも保存は可能ではあるが、魚の脂分が染み出して風味が落ちてくるので、できるかぎり冷凍保存すべし。とは、しっかり者の平野屋の女性の受け売りなのだが。

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蒲菊本店
  土産: 静岡おでんセット(2100円~)他
  住所: 静岡県静岡市呉服町2-8-10
  電話: 054-252-0517
  営業時間: 8:30~19:00(水曜日のみ~17:00)
  定休日: 1月1~2日
  URL: http://www.kamakiku.com/html/top.htm

 東から静岡市内の中心に向かって旧東海道を歩いてきて、最初に角を曲がるのは江川町の交差点のところ。ここで南に折れ、次の呉服町の交差点で再び西に向かって曲がる。そして、この呉服町交差点の角にあるのが、蒲鉾をはじめとする練り製品の蒲菊本店だ。創業は明治22年(1889)。現在は三代目と四代目が共に蒲鉾作りを行なっている。

 ベテランの売り子さんによると、今でこそ蒲鉾はスーパーでも気軽に買える食品だが、昔は大変貴重で、庶民の口においそれと入るものではなかったのだそう。料亭や良家などへの納品がほとんどで、一般に市販するようなものではなかったようだ。

 明治末期頃の蒲菊の蒲鉾の価格も、大板で1枚1円、現在で言うなら1000円だったという。良質な魚を使っていたことはもちろんだが、魚の身をすいたり、すり下ろしたり、成形したりといった作業は全て手ずから行ない、量産できるものではなかったため、このような高い値段となったのだろう。静岡にあった御用邸に皇室の方々が訪れる際には、いつも蒲菊の蒲鉾が献上されていたようだ。

 明治末期には蒲鉾以外の練り製品も作るようになった。特に、安価なイワシが原料で加工も蒲鉾ほど複雑ではない黒はんぺんは、庶民にも手の届く価格で、画期的な新製品として注目を集めたのだとか。今でも黒はんぺんは変わらぬ人気を保っている。

 蒲菊でのお薦めは、「静岡おでんセット」。その名の通り、黒はんぺんや角揚げ、ちくわなどの定番のおでんだねを集めたセットだ(出し汁などは入っていない)。蒲菊のホームページで紹介している“静岡おでん”(しぞーかおでん、と発音する)の作り方を参考にすれば、家庭で憧れの静岡おでんが作れてしまうというわけ。なるとやしんじょ、しのだ巻(すり身に油揚げを巻いたもの)など、好みで他の具材に変えてもらうこともできる。

 個人的感想を述べるなら、蒲菊の練り物は他店のものに比べて甘め。もちろんそのままでもおいしく頂けるが、しっかりと煮込むことを前提として作られているような印象もある。実際、おでんにしてみたところ、魚の旨みが染み出て非常においしかった。

 ごたぶんにもれず、この辺りの他の練り製品専門店同様、蒲菊も以前はここで加工作業を行なっていたが、行政の方針で郊外に工場を持つようになった。「今の時代は、臭いだとか、色々とやかましいですからねぇ」と、ベテランさん。

 確かに、静岡市内は美観や衛生面にかなり気を遣っている。そのためか、街は活気に溢れ、シャッター街の多い他の地方都市とは随分様子が違う。こういった街造りが行なわれる以前は、地元商店などの反対も大いにあったようだが、まずまずの街造り成功例と見ていいのではないだろうか。相乗効果で、通り沿いにある昔ながらの練り物屋や茶舗などにも集客があるようだ。

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丸五蒲鉾店
  土産: 黒はんぺん(1枚42円~)、角焼き(1枚147円~)、錦巻き(1本680円)他
  住所: 静岡県静岡市葵区七間町4-5
  電話: 054-252-0775
  営業時間: 9:00~18:00
  定休日: 日曜日、祝日

 府中宿内の札の辻(伊勢丹角)から2筋南、旧東海道より一歩東側に入った通りにある丸五蒲鉾店は、創業明治35年(1902)の練り製品専門店だ。昔はもう少し東側(両替町寄り)に店を構えていたが、市内の区画整理で現在地に移転してきたという。以前の場所に店があった頃は、店奥の加工場で蒲鉾やはんぺんなどを作っていたが、静岡市の近代化と共に井戸水が使えなくなり、工場を別の場所に設けたのだとか。

 女将さん曰く、昔はこの辺りにはもっとたくさん練り物屋があったが、時代と共にその数はぐんと減ったそう。それでも、静岡人のおでん好きは変わらず、需要自体は静岡おでんブームにあいまって増えているようだ。もっとも、飲み屋のみならず駄菓子屋にまでおでんが置いてある静岡だが、なぜか練り物屋ではおでんの具材を売るのみで、その場で食べられるおでんは置いていない。「どうしてでしょうねぇ、やらないんですよ」と、女将さん自身、いぶかしがっていた。

 丸五での人気おでんだねは、定番の「黒はんぺん」に「さつま揚げ」、練り物を角型に成形して表面を焼いた「角焼き」など。また、おでんだねではないし、練り物でもないけれど、「錦巻き」もよく売れるそう。これは、ゆで卵を黄身と白身に分けて、砂糖を混ぜてすり潰し、伊達巻状に簀巻きにして蒸したもの。白と黄のコントラストが鮮やかだ。煮たり焼いたりせず、そのまま食べる。甘くて、おかずというよりおやつに近い。

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