和菓子街道 東海道 由比 深海からやってきたピンクの妖精、桜えび

sakuraebi-main-pic.JPG

深海からやってきたピンクの妖精、桜えび

 4月初旬のある晴れた日、ひとつの期待を胸に秘めて静岡県の蒲原を訪れました。駅に降りたったその足でまっすぐ向かったのは、町の東のはずれ、富士川西岸の河口にほど近い辺り。堤防の上に立って河岸を見下ろすと、そこは一面、真ピンク!折も折、芝桜の絨毯とも見まごうその鮮やかなピンクの正体は、駿河湾特産の桜えびです。

 1年のうち、3月末~6月頭の春漁期と、11月~2月の秋漁期の、合わせて70日間ほどある桜えびの漁期中でも、富士川河川敷で天日干しが行われるのは25日程度。この光景に出会える主な条件は、前日に波が穏やかで桜えび漁が行われていること、干す当日が晴天であること。前日に漁が行われたことを確認できても、河川敷がピンクに染まるか否かは当日になってみないと分からないのです。

 そもそも、世界的にも珍しい品種と言われる桜えびが獲れるのは、国内でもこの駿河湾のこの辺りだけ。理由としては、富士川や大井川、狩野川などの河川が大量の真水を注ぎ込むことによって、駿河湾の由比・蒲原沖は桜えびが生息しやすい塩分濃度に薄まることがひとつ。もうひとつに、この辺りの海底地形が挙げられます。

 駿河湾中央部には富士川河口沖に始まる深い駿河トラフ(海底の凹地)がありますが、ここは丁度、地中で南から押し寄せてくるフィリピン海プレートが、日本列島が乗っているユーラシアプレートの下に潜り込む場所で、湾口部の水深が2500mもある日本一深い湾なのです。この独特の地形が深海を形成し、桜えびをはじめ、タカアシガニ、ラブカ、ハダカイワシなど、ここにしかいない生物や珍しい深海魚がたくさん生息しているのです。

 そんな特殊な駿河湾で桜えびの漁が行われるようになったのは、明治27年(1894)年のこと。ふたりの漁師が網を浮かせておく浮樽を船に積み忘れたまま出航し、仕方なくそのまま網を海中に投げ込んだところ、深く沈んだ網に大量の桜えびが入ったのです。以来、桜えび漁が盛んになったのでした。

 しかし、漁が盛んになるにつれ、「このままでは孫の代まで桜えびを残せないのでは」という不安が、漁師の間で広まるように。夏の産卵期には自粛されていた漁ですが、1965年頃からは1~2月も禁漁するという自主規制を開始。

 さらに、漁船ごとに均等に水揚げされた桜えびを分配する「総プール制」を採用することによって、漁獲を競う必要性をなくしてしまいました。資源保護という観点で自ら漁獲量を規制するという取り組みは全国的にも珍しく、地元の人たちの桜えびを大切に思う気持ちが伝わってきます。

 漁獲高は例年2000トン前後と少ないため、15キロ辺りの浜値(水揚げ地の取引価格)も最近では3万円以上と、桜えびは今や高級品。しかし、あまり価格が高騰しても消費者離れが懸念されるため、一定の漁獲高は確保しなければなりません。

 2006年4月1日から施行されている地域団体商標制度で「由比桜えび」が地域ブランドとして認可されたり、今までは厄介ものだった桜えびの長いヒゲ(触角)に変異・発がん物質の毒性緩和作用や活性酸素消去作用が確認されたりと、桜えびはますます脚光を浴びるようになってきました。

 その一方で、桜えびの天日干し商品には台湾産のよく似た小エビを混ぜる悪徳業者も出現し、関係自治体や漁協、商工会などではその対策にも追われています。漁獲高のコントロールに偽ブランドの追放と、桜えび関係者の苦悩の日々は続いているのです。(例えば、蒲原産の桜えびの天日干しに関しては町で認証した「○証マーク」(○の中に証の字)がついている商品のみが本物です)

 そんな悩ましい桜えびですが、一番の食べごろは春。夏の産卵後に孵化したばかりの小ぶりなものが多い秋に比べて、春は体長4~5cmほどに成長して甘みもたっぷりの極上桜えびが獲れます。かき揚げにしてよし、釜揚げにしてよし、もちろんお刺身も絶品の桜えび。天日干しなら香ばしく風味が増して、また違った味わいになります。

 2日続けてお天気なら富士川河川敷のピンクの絨毯で迎えてくれる由比・蒲原に是非、足を運んでみて下さい。頂く時は、もちろん、この小さなピンクの妖精を守り続けてきた地元の人々への感謝の念も忘れないでね。

(右の写真は全て、クリックすると大きくなります)

shrimp-ships.JPG

由比・蒲原の桜えび漁船が集う由比漁港。沖では大井川町の漁船も漁に参加。

shrimps-mt.fuji.JPG春・秋漁期中、気象条件が適う時だけ見られる光景。手前の色の濃いものは着色された輸入品。奥の淡いピンクが本物の駿河湾産桜えび。

drying-shrimps.JPG



桜えびは朝7~9時頃から網の上に撒く。

raw-shrimps.JPG




瑞々しい生桜えび。

sewing-net.JPG


桜えびを乾かしている間に、網の補修をするのも大事な仕事。

gathering-shrimps.JPG


午後1~2時頃、7、8割がた乾いたところで布団叩きを使って回収。

dried-shrimps.JPG


太陽の熱で表面がかりっと乾いた桜えび。一帯に香ばしい匂いが漂う。

steamed-shrimps.jpg
こちらは釜揚げ(塩茹で)されたばかりの桜えび。天日干しされないものは生のまま冷凍するか、釜揚げされる。

sailing.JPG


日没頃(夕方5~6時)、出航。2艘1組、80以上もの船団がで沖で操業。

deepfried-sakuraebi.JPG
deepfrying-sakuraebi.JPG
kurasawaya-sakuraebidon.JPG
kurasawaya-sakuraebi-dukushi.JPG

左)由比漁港で地元のおばさん達が揚げてくれる桜えびのかき揚げは、1枚200円。サクサクの熱々!
中右)倉沢屋のかき揚げ丼1575円は、大きなかき揚げが2枚、でんとのってボリューム満点。桜えびサラダ付。
右)釜飯、かき揚げ、刺身、酢の物、釜揚げ、しんじょなどがつくコース料理「桜えびづくし」は4200円(倉沢屋)。
※倉沢屋:由比町東倉沢69-1、0543-75-2454、月曜定休
(料理の写真はクリックすると大きくなります)