和菓子街道 伊勢街道 津 玉吉餅店

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郷土の味を伝える町の餅屋さん

 津観音の門前町、アーケード街から一筋東の通りに面して店を構える玉吉餅店は、江戸時代後期に暖簾を上げた老舗和菓子屋だ。元々は煎餅を売る店だったというが、明治初期に餅屋となり、今では郷土の菓子や朝生を中心に販売している。現在、八代目の加藤丈也さんと共に菓子作りをしているのは、息子で九代目の加藤俊次さんだ。お若いながら、代々受け継がれてきた店の味を守り続けている。

 中でも特に人気が高いのが、「みたらし団子」と「みたらしやじろ」。「みたらし団子」はもちろん、いわゆる甘辛の醤油ダレをまとった串団子のことだが、そこはやはり餅屋。夏と冬では搗き方も変えているというこだわりぶりだ。上質なもち米を使った搗きたての団子は、むっちりと弾力があり、焦げ目も香ばしく、それだけで旨い。そこに、本葛を使ってとろみをつけた醤油ダレとくると、もういうことはない。とろりとしたタレは甘すぎず、辛すぎず。煮詰めていないためかタレの色は薄めだが、濃厚過ぎて団子の味を消してしまうようなタレよりもむしろ、好感が持てる。団子は楕円形で、扁平になっているため、タレがよく絡むのが嬉しい。これは、津の伝統的な団子の形状なのだとか。

 一見、みたらし団子のようにも見える「やじろ」はというと、これまた個性的なのだ。もち米にうるち米を混ぜた「たがね生地」を、短冊状に切り、串に刺したもので、しっかりとついた焦げ目がいかにも旨そうだ。うるち米を搗き込んでいるため、ぶつぶつっとした食感がおもしろい。噛むほどに米の味がして、素朴な風味が懐かしさを誘う。通常の餅よりもたがねの方が伸びにくいため、年配の方にもこちらの方が食べやすいのだという。

 ところで、「たがね」は上記の通り、もち米にうるち米を混ぜて搗いた餅のことで、当サイトの東海道・桑名編の中の「たがねや」の項でも少し触れている。語源は、金工や石工で用いる鋼鉄製のノミ「鏨(たがね)」。冷めるとすぐにカチカチに堅くなるため、こう呼ばれるようになったのだともいわれる。

 では、「やじろ」とは一体、何なのだろうか。加藤さんが答えを教えてくれた。「たがね」と「やじろ」は同義語なのだそう。三重県、特に北勢地方ではこういった餅を「たがね」と呼んでいるが、津よりもう少し南、伊勢に近い多気郡辺りでは、これを「やじろ」と称しているのだという。ただ、その語源は定かではない。漢字も不明だ。それでも、三重県では、「たがね」といってもも「やじろ」といっても、大方の人にはうるち米入りの餅との認識があるようである。玉吉では「やじろ」にする前の切り餅の「たがね」も販売している。独特の食感や風味が病み付きになる「たがね」そのものもお薦めだ。

 「みたらし団子」も「やじろ」も、注文を受けてから焼いてくれるので、熱々を頂くことができる。保存料の類は一切使用していない純粋な餅・団子のため、1~2時間もすれば堅くなってくる。やはり、持ち帰るよりも焼きたての熱々を頂きたいものだ。

「お客さんからはよく、ここの餅はすぐ堅くなるっていわれるんです。でも、保存料を使っていないので、仕方ないんです。餅は本来、すぐに堅くなるものですし」
と、俊次さん。菓子に使う材料も、加工されたものはできるだけ使わないようにしているという。

 津の伝統を守る店として、玉吉が大事にしている郷土菓子のひとつに、「けいらん」がある。「けいらん」は、上新粉で作った団子生地で餡包み、染色したもち米を表面に散らして蒸したもの。この類の菓子は日本各地にあり、名称も地域によって異なる。同じ三重県内にも類似の菓子はある。東海道関宿の前田屋の「志ら玉」(http://www.trad-sweets.com/wagashikaido_10/pg89.html)は、同様の餅に赤・黄・緑に染めた米粒状の米粉生地が一粒ずつ乗せられている。多気郡にある長新の「まつかさ餅」は、「けいらん」にとてもよく似た菓子だが、ただ、表面につけられた米が染色されていないだけだ。余談ではあるが、筆者の故郷愛知県三河地方では、「伊賀餅」「花餅」「雛餅」などとも呼ばれ、桃の節句の時に作られる菓子である。そのため、「けいらん」を実家に持ち帰った時には、「どうしてこんな時期にお雛様のお菓子を?」と家族が怪訝そうにしていた。

 地域によって名前を変える菓子ではあるが、「けいらん」という呼び名は、津市周辺のごく限られた地域でのみ使われているらしい。だが、その由来は詳らかではない。一説には、上に散らしたもち米の色鮮やかさから「桂蘭」の名がついたといわれ(花のイメージか。桂蘭/桂欄というと、漢方薬の木欄と同義の気もするが)、また別の説では、そのつるんとした表面と真白な皮色が剥き卵のようだから「鶏卵」なのだともいわれている。実際、玉吉でも、戦前までは鶏の絵を描いた看板を掲げて「けいらん」を販売していたという(残念ながら、看板は戦火で焼けてしまった)。ただ、鶏の絵を使ったのは、「けいらん」という言葉から同音の「鶏卵」を当てたからなのか、「鶏卵」の意味での「けいらん」だからなのか、やはりよく分からない。まさに、鶏と卵、どっちが最初?と同じ疑問である。

 鶏の卵という意味であれば、菓名の由来は東海道は由比宿の「たまご餅」と同じである。確かに、「たまご餅」は染色したもち米を「けいらん」から取り去ったような菓子だ。他にも、餅や餅菓子を、同様の理由から「けいらん(鶏卵)」と呼んでいる地域は東北地方などにもある。しかし、桂蘭にせよ鶏卵にせよ、津の「けいらん」に当てはまるのかどうかは、確証がない。

 いずれにしても、「けいらん」は古くから津の名物とされており、江戸時代には将軍にも献上されたという記録も残っている。にもかかわらず、「けいらん」が何を意味するのかは判然としないのだ。現在、津市内には、玉吉や、向かいのお焼屋も含め、数軒が今もこの不思議な名前の郷土菓子を作り続けている。しかし、玉吉でもお焼屋でも、「けいらん」の謎は解けなかった。そこで、「けいらん」の秘密を探るべく、同じ津市内にある別の餅屋「宮崎餅店」(栄町1-930、電話:059-228-2413)を訪れてみた。

 玉吉餅店から少し話は逸れるが、この場を借りて、ほんの少々、宮崎餅店についてご紹介を。店があるのは、四天王寺にほど近い国道23号線沿い。塔世川(現・安濃川)の南側のこの辺りは、かつては「塔世茶屋」と呼ばれ、茶店や旅籠が連なる通りだった。宮崎餅店も昔は伊勢街道に面して店を出していたが、16年ほど前に区画整理が行われると、並びの他店同様、23号線に表を向けるようになった。かつては同じ通りに3軒ほどの餅屋があり、「いばら餅」や「けいらん」など郷土の菓子を作っていたそう。しかし、他店はいつしか姿を消し、今でも変わらず商いを続けている餅屋は宮崎餅店のみ(菓子屋も含めれば、川糖などがある)。創業年は定かではないが、現在のご主人は三代目だという。

 「けいらん」についてご主人にお伺いすると、逆に質問されてしまった。
「どういう意味なんですかねぇ?『けいらん』の意味を尋ねに、学者さんもいらっしゃったことがあります。こっちが教えてもらいたいくらいですよ。分かったら、是非、教えて下さい」

 ここでも、答えは見つからず。旧道沿いで昔から商いしている店3軒に聞いても分からない、学者さんも分からない、となると、一和菓子ファンというだけではもうお手上げだ。どなたか、教えて下さい。管理人 拝。

 ちなみに、今回訪れた3店それぞれの「けいらん」はというと…

【玉吉】 上新粉で作った餅皮は厚めで、もちもちと弾力があり、しっかりとした食感。漉し餡は塩がきかせてあり、コクがある。全くの無添加のため、1日経つと堅くなった。上に散らした米の色はかなり濃いめ。

【お焼屋】 上新粉の餅に天然糖質(トレハロース)を加えてあるため、ほんの少しだけ餅に甘みがある。それ以上に、この糖質の添加によって、餅皮は極めて柔らかさを保つことができ、翌日も変わらずしっとり、柔らかだった。また、餅皮は薄め。漉し餡は瑞々しく、しっとり、さっぱりとしている。薄い餅皮と餡が一体になっており、そこに上に散らした米の香りがプラスされて、大変おいしい。上に散らした米の色はかなり薄め。

【宮崎餅店】 上新粉の餅皮は厚めで、全体的にずっしりとした重みがある。餅屋だけに、餅を味わう「けいらん」。ぽってりとした食感の漉し餡は、甘さ控えめ。上に散らした米は、黄色はとても色が濃いが、ピンクはほんのり。

 「けいらん」の名の由来に行き詰ったところで、話を玉吉餅店に戻そう。この他、玉吉には、昔、農家の人が着物の袂に入れて野良仕事に持っていったという「ふところ団子(黒団子)」(冬期のみ)や、茗荷の葉の移り香がすがすがしい「みょうが巻」、近年になって俊次さんが考案した斬新な「とうふプリン」(夏季のみ)や、金胡麻を散らした十穀米入りのヘルシーな「十穀おはぎ」など、新旧交えて目を惹く菓子ばかりだ。

 「店の歴史を背負っているということは、そんなに気にしていません。それよりも、基本を大事にしつつ、本物の素材にこだわることを心掛けています」
 いいものを確かな腕で作っていることで、地元での評判も非常に高い菓子屋だけに、出店の話も時折もちかけられるという。しかし、「自分の目の届く範囲で仕事がしたい」という加藤さんは、誘いを断り続けているそう。津の菓子文化を伝え続けてくれることに、今後も期待したい。


(お菓子の写真をクリックすると大きくなります)

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mitarashi.jpg「みたらし団子」
yajiro.jpg「やじろ」
tagane.jpg「たがね餅」
tamakichi-keiran.jpg玉吉餅店の「けいらん」
oyakiya-keiran.jpgお焼屋の「けいらん」
miyazaki-keiran.jpg宮崎餅店の「けいらん」
myouga.jpgみょうが巻き
ten-grains.jpg十穀おはぎ
tamakichi-owner.jpg九代目・加藤俊次さん

店舗情報

玉吉餅店
  菓子: みたらし(団子、やじろ各5本370円)、けいらん(1個130円)
       みょうが巻(1個110円)、十穀おはぎ(1個130円)、たがね(1袋505円)
  住所: 三重県津市大門17-18
  電話: 059-228-2594
  営業時間: 9:00~18:30
  定休日: 月曜日 (祝祭日の場合は火曜日)