和菓子街道 伊勢街道 神戸 近江屋製菓舗

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城下町の老舗菓子屋と「神戸の寝釈迦」

 広々とした目抜き通りになっている神戸宿の中心部辺りで、伊勢街道から離れて西に向う道に入ると、近江屋製菓舗という和菓子屋が道の右手に見えてくる。今でこそ店構えは新しくなっているが、この店、実は200年以上もの歴史を持つ老舗である。

 元々、近江屋は口伝では幕末の弘化元年(1844)の創業と伝えられてきたが、最近になって「寛政十年十一月」(1798)と記された文書が発見された。それより以前から商売はしていたであろうと推察して、現在では寛政元年(1789)を創業年としているという。

 もっとも、その頃から既に和菓子屋であったかどうかは、この文書からは知ることができないのだが。確認できる限りでは、現当主で7代目を数える。

 店内には古い干菓子の型や婚礼用の菓子箱、建て替え以前に使用していた階段箪笥などが展示されている。屋号の由来は定かではないが、恐らく先祖が近江出身だったことに因むものと考えられる。

 城下町の菓子屋として長い歴史を刻んできた近江屋は、結婚式や仏事の引き菓子、干菓子、赤飯などを中心に製している地元密着型の店だ。もっぱら人気を呼んでいるのは、自家製餡入りの「大あん巻」。

 普段は店頭に据えた鉄板で皮を焼いており、運がよければ熱々を求めることもできるのだが、折り悪く訪れた日は丁度、鈴鹿サーキットでの子供の餅搗きイベントの準備のため多忙で、大あん巻は作っていなかった。

 代わりといってはなんだが、昔から作っているという和三盆の干菓子と、郷土菓子「いばら餅」と「鬼まんじゅう」を薦められた。

 いばら餅は、山帰来(サルトリイバラ)の葉で包んだ餡入りの蒸し餅。山帰来の別名「がんたち」から、「がんたち餅」とも呼ばれているこの地方のお馴染みの菓子だ。

 山帰来の良い香りが移ったあっさりとした餅(団子生地)が、餡の強い甘みを緩和してくれている。中部地方のおやつ、鬼まんじゅうは、角切りの薩摩芋を混ぜた蒸しパン。近江屋のものは甘さ控えめで、むちっとした生地がクセになりそうだ。

 しかし、歴史のある神戸の町に相応しい菓子は他にもある。代表銘菓「寝しゃかまんじゅう」だ。桑名の「都饅頭」によく似たさらし餡入り、肉桂風味の焼饅頭で、表面には黒ゴマを散らしてある。餡の水分は少なめで、割るとほろほろと崩れてくるが、口に含むとさらっと溶けて舌触りがよい。しっかりとした甘さで、お茶請けに適した饅頭だ。

 菓銘の由来は、店の正面に横たわる応永30年(1423)年創建の古刹・龍光禅寺で毎年3月第2土・日・月に執行される大涅槃会で開帳される「神戸の寝釈迦」図である。日本三幅のひとつに数えられる16畳敷の大きな涅槃図は、南北朝から室町時代初期にかけて活躍した京都東福寺の画僧・吉山明兆(兆殿司/1351~1431)の手による作だ。

 大きさもさることながら、この図の最大の特徴といわれているのは、「猫」が描かれていることだ。室町時代までは魔物扱いされ、通常の涅槃図に描かれた53種の動物の中に含まれることのなかった猫だが、明兆はあえて猫を加えて図を完成させた。釈迦の唇の色付けに苦心しているところ、1匹の猫が紅色の絵の具を加えて側へやって来たため、この猫の健気さを憐れみ、図に描き加えたという伝承がある。

 この珍しい涅槃図が評判を呼び、当時からこの図が開帳される涅槃会には、大勢の参拝者が龍光禅寺を訪れてきた。今日でも、期間中にはこの絵を拝まんと3000人もの人々が寺を訪れ、境内には屋台などが建ち並び、大変な賑わいを見せる。精進料理や呈茶の接待も行われ、昔ながらの懐かしい縁日の様相を見ることができる。

 ところで、近江屋から龍光禅寺へ入るには、道を挟んで近江屋の正面に建つ総門(寺の正門にあたる三門とは別の北門)を潜ることになる。この総門は、関が原の戦いに功あって神戸城を与えられた一柳直盛監物が、慶長17年(1611)に兄直末(豊臣秀吉家臣)の23回忌にあたって龍光禅寺に寄進した門だ。

 そして、この門から入り、そのまま境内を横断して寺の反対側の通りに出て、更に直進すると、神戸城跡に突き当たる。

 神戸城は元々、亀山の関氏一族の神戸具盛が天文年間(1532~1555)に築城。その後、具盛の養子に入った織田信長の三男・信孝が城主となり、金箔瓦を用いた荘厳な天守を築いたが、この天守は後に桑名城に移されることになる。

 信孝の後に幾度か城主を替えた後、前述の一柳直盛が入部した神戸城は、江戸時代になると一旦は幕府直轄領となり、更に幾度か城主が入れ替わるも、享保17(1732)年以降は本多家が代々、明治に到るまで城を預かった。

 城址には、天守台や石垣、堀や土塁の一部がひっそりと残るのみで、現在は公園として整備されている。近江屋の女将さんによると、江戸時代には神戸城にも菓子を届けていたのだそう。

 あくまで口伝であり、その辺りの定かな証拠となる文書などは残っていないようだが、近江屋と城とが総門を挟んで一直線で結ばれることに、何かしらの縁を感じないでもない。

 近江屋が暖簾をあげた頃の城主は本多家。1万5千石という小藩の殿様も、寺の向こうの近江屋の菓子を口にしたのであろうか。想像は膨らむばかりだ。



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ryukoji.jpg龍光禅寺
neshaka.jpg涅槃図(龍光禅寺蔵)
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kambe-castle.jpg神戸城跡

店舗情報

近江屋菓子舗
  菓子: 寝しゃかまんじゅう(1個105円)
       鬼まんじゅう(1個105円)、いばら餅(1個90円)他
  住所: 三重県鈴鹿市神戸2-17-23
  電話: 059-382-0030
  営業時間: 9:00~18:00
  定休日: 月曜日