和菓子街道 東海道 大津3

大津宿の続き・・・

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その他のおいしい立ち寄り情報

松田魚伊
  土産: 稚鮎木の芽煮 (1100円/100g~)、ごり山椒/生姜煮 (540円/100g~)
       いさざ醤油煮 (840円/100g~)、炭焼うなぎ (1540円/176g前後)
       湖魚佃煮試食セット (2100円/380g~)他
  住所: 滋賀県大津市西の庄10-29
  電話: 077-522-2352 (フリーダイヤル 0120-270-888)
  営業時間: 9:00~19:00
  定休日: 日曜不定休
  URL: http://www.biwa.ne.jp/~mtd/

 膳所の義仲寺より少し東の旧道沿いに店を構える松田魚伊は、明治13年(1880)創業の川・湖魚問屋で、平成11年ほど前に佃煮専門店として一般にも小売をするようになった店だ。店舗は一部改修したものの、基本は創業当時のままで、店の奥に目をやると、どこまでも細く長く続く土間の遥か向こうに、わずかな外光が差しているのが見える。奥行きは50メートルほどもあるのだとか。まさに、鰻の寝床である。

 私が店を訪れたのは、夏の盛りを少し過ぎた頃。女将さんが、「今だけの季節のものです」といって掌に乗せてくれたのは、「ごりの生姜煮」だった。ごりは、琵琶湖で獲れるじゃこのような小さな湖魚で、ごり漁は夏の間最も盛んに行なわれる。通年販売しているごりの甘煮は飴を足してしっかりと色づくまで煮詰めるが、夏期だけの淡味の生姜煮や山椒煮は、水揚げされたばかりの新鮮なごりを水を加えず生酒だけで炊いて、少量の醤油とみりんでうっすらと味をつけたものだ。飴を加えていないため、ふっくらと炊き上がっており、ごり独特のほのかな苦味も残っている。しっとりとした食感が舌に優しい。

 ごりをはじめ、松田魚伊で扱う魚は主に琵琶湖産の小魚や川えびが中心。四代目当主の松田茂之さんは、子供の頃を振り返ってこう語る。

 「昔はうちの裏側がすぐ海になっていました。私たちは琵琶湖のことを海と呼ぶんですよ。窓の縁に腰掛けて、足を外に出して海で釣をしたものですよ。友達の家から帰る時も、泳いで帰ったくらいです。ここいらの子供たちはみんなそうやって育ったんですよ。今ではだいぶ埋め立てられて、琵琶湖はずっと遠くになってしまいましたがね」

 今ではプリンスホテルが建っている辺りは、かつては「海」の沖だったのだろう。東海道も、今よりずっと琵琶湖の側を走っていたことになる。

 ご主人の話を伺いながらも、目はショーケースに美しく盛られた惣菜の上を泳いでいる。やはり琵琶湖特有のいさざという魚の醤油煮や、鮎の稚魚・ひうおの木の芽煮、川海えびの佃煮、しじみの時雨煮などなど、目移りしてしまう。女将さんがこちらの気持ちをさっと読んで、小皿にとって試食をさせてくれた。恥ずかしいやら、嬉しいやらで、ついつい、色々と味見をしてしまった。

 醤油は特製の生本醸造醤油を使用。しっかりとした味付けながらしつこさはなく、どれも上品な味わいの品ばかりだ。若鮎の木の芽煮とごりの生姜煮、いさざの醤油煮るを100グラムずつ頂いて、店を出た。帰りがけにすれ違った近所の人らしいお客さんが、「蒲焼ちょうだい」と言っているのが耳に入ったので、私も急いで引き返し、1本分お願いした。

 毎日備長炭でじっくりと焼かれる身の柔らかな青口鰻は、代々継ぎ足してきたという注ぎ足しのタレで色づけしてある。女将さんが戻ってきた私を見て、微笑みながら「肝吸いにお使い下さい」と、鰻の肝の入った袋をそっと渡してくれた。

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matsuda-uoi-tsukudani.JPG商品の写真をクリックすると大きくなります)

かねよ
  料理: きんし丼 (1730円~)他
  住所: 滋賀県大津市大谷町23-15
  電話: 本店 077-524-2222
       レストラン 077-523-0231
  営業時間: 11:00~20:00
  定休日: 本店 木曜日
        レストラン 火曜日
  URL: http://www.kaneyo.in/

 大津本陣を過ぎた辺りから徐々に勾配を増していく坂道を登っていくと、古来、歌にも多く詠まれた逢坂の古関にたどり着く。ここを境に道は下り坂となるが、車通りの激しい車道から離れて斜め右に入る道が旧東海道だ。この旧道入口から50メートルほど下った辺りに、鰻屋「かねよ」がある。

 創業は明治5年(1872)。その頃、伊勢の魚を京へ運ぶ行商に、米吉という名の青年がいた。米吉は逢坂山を越える時には決まって、峠の茶屋で一服していったものだった。気立ての良い看板娘のお鶴にも、心を引かれていたのかもしれない。

 米吉は、この茶屋で出される茶の旨さにいつも感心していたが、それはすぐ側の音羽山から流れ出る清流で茶を淹れているからだということを知り、この水で鰻を〆たらさぞ旨かろうと思うようになった。鰻は活力があり、他の魚よりも長い時間の移動に耐えられる。そこで、米吉は一念発起して鰻屋を始めることにした。米吉の鰻屋は順調で、やがてはお鶴を娶り、ふたりで仲良く、峠を越える旅人をもてなした。これが、「かねよ」である。現在は米吉から五代目を数える主人が、数人の板前を引き連れ忙しい店を切り盛りしている。

 大正の頃には「かねよ」の鰻はすっかり逢坂山の名物になり、詩人の野口雨情が箸紙に「うなぎ料理は逢坂山にひびくかねよが日本一」という歌を残していったこともあった。かねよの看板などに「日本一」の文字が書かれているのは、この逸話によるものだ。

 京へ向かって街道の右手には気軽に立ち寄ることができるレストラン部門があるが、訪れる日時が決まっているのであれば、街道左側にある本店の座敷を予約して利用したい。800坪もある庭園には音羽山の清流が引き込まれており、せせらぎを聞きながら食事を楽しむことができる。

 百人一首の三条右大臣も「名にしおはば 逢坂山のさねかづら 人にしられでくるよしもがな」と歌に詠んだように、昔は実葛(さねかづら)の蔓が生い茂っていた逢坂山だが、今ではこのかねよの庭園にのみ残されている。かねよの庭の実葛は、今も毎年夏になると黄白色の可愛らしい花を咲かせる。

 庭の片隅には鰻用に水場が儲けられており、ここで昔と変わらず鰻を〆ている。問屋で10日間絶食させられた鰻は、店内のこの自然の小川のような流れの中に更にさらされ、更に10日間絶食させられる。こうすることによって、ほどよい脂を残す程度に身がしまっていて、泥臭さもない鰻になるのだ。

 関西流に腹開きで蒸しを入れずに焼いているため、鰻本来の風味や脂がしっかりと残っており、コクがある。炭火ではないものの、焼きながら何度もタレに潜らせることによりしっかりと水分補給をしているせいか、鰻はふっくらと仕上がっている。

 現当主の吉田惠一さんで五代目を数えるかねよだが、創業以来追い足してきたタレは甘みが抑えられたキリっとした味は昔と同じ配合で作られている。蒲焼でその味は充分堪能できるが、かねよの名物と言えば、やはり「きんし丼」だろう。

 運ばれてくるその丼の蓋は、中身に押し上げられて浮いている。これだけでも期待感が高まるが、蓋を開けると更なる驚きが待っている。うな丼の上には、でっぷりとした大きな大きな物体がでんと乗っている。これがかねよ流の「きんし」だ。

 「きんし」と名づけられてはいるものの、乗っているのは通常の薄焼き卵を細切にした錦糸卵ではない。卵を2、3個を解きほぐし、カツオと昆布の出汁を加えて作る大迫力の分厚いふんわり出汁巻き卵を丸ごと乗せているのだ。だから、あえて錦糸ではなく「きんし」とひらがなで書いて区別しているのだそう。

 きんしの下にはもちろん、ちゃんと鰻の蒲焼とご飯が入っている。出汁巻き卵だけつついてもいいし、鰻と一緒に頬張ってもいい。きんし丼には普通盛と上、特上があるが、上にいくほど鰻の枚数が増え、特上に至ってはご飯とご飯の間にも鰻が挟んである。これでもか、というボリュームで、逢坂山の峠くらい、これさえあれば苦もなく越えられるというものだ。

 この他、ご飯に刻んだ鰻を混ぜ込んで更にその上に鰻を楓模様に盛り付けた初秋限定の「うなぎちらし」や、冬のかねよ名物「うなぎのすき焼」など、季節限定メニューやオリジナル・メニューも多数あって、何度訪れても飽きがこない。初代米吉が見込んだ音羽山の清水が枯れぬ限り、かねよの鰻は「日本一」なのだろう。

京都の京極にも「京極かねよ」というお店があります。同じく「日本一」の暖簾が上がり、きんし丼もある。双方にお尋ねしたところ、おそらく元々は同じ店で、親戚か板前かが暖簾分けをしたのではないだろうか、とのことだが、詳しくは分からないそう。京極かねよのご主人によると、同店の創業は明治末期(ホームページには大正とあるが)らしい。双方は全く関係なく、経営者の苗字も異なる。きんし丼もそれぞれの店の「オリジナル」とのこと。野口雨情の歌が「日本一」の由来であるならば、逢坂山のかねよが本家かもしれないが、これも勝手な憶測に過ぎない。

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kaneyo-signpost.JPGかねよの庭園内に残る古い東海道の道標。昔の道はかねよの敷地内を通っていたようだ。 kaneyo-oni.JPG大津絵をモチーフにした信楽焼きの「鬼の念仏」像。かねよが運営する「鬼の念仏ブログ」はこの像が主役で、なかなかおもしろい。

kaneyo-kinshidon.JPG(料理の写真をクリックすると大きくなります)

魚忠
  料理: お弁当「花遊手かご弁当」 (3000円~)
       懐石料理 (7350円~)、ランチコース (3150円~)
       ※全て消費税・サービス料込み
  住所: 滋賀県大津市京町2-4-10
  電話: 077-522-4428
  営業時間: 11:30~22:30
          ※花遊手かご弁当とランチコースは ~14:00
  定休日: 水曜日
  URL: http://www6.ocn.ne.jp/~uochuu/

 餅兵での取材を終えて、お礼を言って店を出た時のこと。細い旧道を挟んですぐ真向かいに、料亭と思しき店があることに気付いた。間口は広く、2階は虫籠窓になっている。昼食をまだ済ませていなかったこともあり、店の暖簾をくぐってみた。店の名前は、魚忠。予約を入れておらず、時間はそろそろお昼の2時を回ろうとしていたため、断られるのではないかと懸念したが、着物姿の若女将が快く席を用意してくれた。

 通された10畳の座敷は、長い床の間と飾り棚を設えた立派な部屋で、壁には古い大津絵がかけられている。懐石料理の店のようだが、お昼時には手軽なランチコースやお弁当もあるとのことで、今回は「花遊手かご弁当」をお願いした。料理を待つ間、若女将にお話を伺うことができた。

 魚忠の創業は明治後期。現当主の橋本忠司さんは三代目で、歴代当主が名に「忠」の字を持っていることから、この店名がつけられたのだという。元々、旧東海道より一筋南の通りで料亭を営んでいたが、道路拡幅のため立ち退きになったことを機に、2年がかりで交渉をして現在の建物を買い取ったという。

 以前は一見さんではちょっと入れない料亭で、営業時間も夜のみだったが、この場所に移ってからは、大津を知らない人にも利用しやすい店に生まれ変わった。

 店の建物は元々は呉服屋だった町家で、広い間口を持つ堂々たる構えの建物は明治38年(1905)の築。前の持ち主の先代が数奇者だったらしく、庭造りに2年、家造りに3年もの歳月をかけて完成させた屋敷だという。

 魚忠が買い取る前は、老夫婦が広い屋敷の一間だけを使って生活していたそう。そのため、使用していない部屋は若女将の言葉を借りれば「お化け屋敷」状態だったというが、魚忠の手に渡ってからは修繕をし、今では国の有形文化財にも登録されている。

 奥の庭は、近代庭園の先駆者である七代目小川治衛兵、通称「植冶」の手によるもの。植冶の代表作には、平安神宮苑、円山公園、京都国立博物館の庭園などが挙げられる。前の持ち主(の先代)がいかに造園にこだわりを持っていたか、察することができる。

 そんな話をするうちに、お弁当が部屋に運ばれてきた。可愛らしいバスケットには野の花が添えられr、中には色とりどりの季節のものが詰まっている。女性が喜びそうな、愛らしい趣向だ。この他、季節のご飯とお吸い物、茶碗蒸し、天婦羅、お造り(刺身盛り合わせ)などがつく(値段による)。食後にはデザートと共にコーヒーか抹茶が用意され、藤屋内匠の大津絵落雁が添えらる。

 私がお邪魔した時には1階の部屋に通されたが、大津祭の際には、虫籠窓のある2階の部屋を予約することをお勧めしたい。部屋の窓を開ければ町を練る曳山もじっくりと眺めることができるという。歴史の街、大津散策の途中で立ち寄りたい趣のある店だ。


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かね吉
  料理: 近江牛すき焼・しゃぶしゃぶ(6300円~)
       近江牛オイル焼(7300円~)、近江牛フィレステーキ(7500円/150g~)他
       ※料金にはサービス料が加算されます。
  住所: 滋賀県大津市馬場1-10-18
  電話: 077-522-3744
  営業時間: 座敷 11:30~22:00
          レストラン 11:30~14:00、17:00~22:00
  定休日: 座敷 なし
        レストラン 水曜日
  URL: http://www.kanekichi.co.jp

 膳所の義仲寺にもほど近い国道161号線沿い。西部百貨店の向かいに建つ「かね吉」は、創業明治30年(1897)の近江牛料理の老舗だ。大津でこの店を知らない人はいない、というくらいの有名店だが、レストラン部門は値段も抑え目で気軽に利用することができる。

 しかし、老舗に来たのであれば、やはり見事な庭に面した座敷を利用したい。春には枝垂桜、夏には百日紅など、四季折々の花が咲き乱れる庭園には、古びた燈籠が立ち、老舗然とした趣を見せている。その庭を囲むように建つ座敷は奥深く伸びており、旧東海道と背中合わせになっている。

 座敷で頂けるメニューは、基本的に近江牛のすき焼、しゃぶしゃぶ、オイル焼、フィレステーキのいずれか。近江牛の最もおいしい食べ方はと問うと、お店の方は「好き好きです」とお答えになったので、今回はステーキをお願いした。和食の多い旅だったこともあるが、ほんの少々の塩コショウで味付けしただというステーキなら、肉そのものの味が楽しめるだろうとの期待もあった。

 果たして、本場で頂く近江牛のお味は、というと、これがまた旨いのだ。松坂牛や神戸牛と並ぶ和牛の三代銘柄に数えられる近江牛の特徴は、強い粘着力のある良質な脂肪にある。その脂肪が織りなすきめの細かいサシが、非常に柔らかい肉質を作り出している。くんと鼻腔に漂う独特の香りも特徴的だ。

 目の前の鉄板で焼かれるステーキは、レアかミディアムレアくらいが丁度よい。多少焼きすぎても柔らかさは損なわれないが、風味はやはり、浅焼きでこそ味わえる。そのまま口に運んでも良いが、ポン酢をつけてさっぱりと頂いてもおいしい。

 近江牛ロースのすき焼きもお薦め。「昔ながらの焼き方」で、醤油と砂糖のみの割り下を加えながら焼いていく。ご飯と一緒にたっぷり食べたい、という人はこちらをどうぞ。

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kanekichi-steak.JPG(料理の写真をクリックすると大きくなります)

うおい(魚伊商店)
  料理: うおい御膳 (2835円、要予約)他
  土産: うなぎ笹巻おこわ (1個315円、蒸篭入10個3050円)
       つつうなぎ (1竿1680円)、鰻佃煮「う」 (1袋630円/50g~)他
  住所: 滋賀県大津市唐橋町16-4
  電話: 077-537-0181
  営業時間: 販売部 9:00~18:00
          飲食部 11:00~14:00、17:30~20:00 ※要予約
  定休日: 木曜日
  URL: http://www.e-uoi.com/shop.html

 多くの料理旅館が軒を連ねる瀬田の唐橋の西詰北側に店を構えるうおい(魚伊商店)は、料理研究家の岸朝子氏のご贔屓で、多くのグルメ雑誌でも紹介されている川魚専門店だ。明治初期に琵琶湖や瀬田川で獲れる川魚を卸す問屋として出発。鰻の蒲焼や川魚、しじみ、川えびの佃煮などを一般に販売するようになったのは、昭和28年からである。店先の暖簾の「うおい」の文字は、大津絵の大家である知人の高橋松山氏に書いてもらったものだという。

 うおいで扱う川魚は、膳所公園沖合いで「えり」と呼ばれる伝統漁法によって獲られている。えりとは、笹竹を並べて魚を壷に誘導する定置漁法のこと。大型漁船で魚を一網打尽にする乱獲とは違い、環境に優しい漁法として近年見直されている。

 この昔ながらの漁法にこだわって獲られる川魚を、独自の味付けで炊いて作る佃煮や料理はどれも奥深い味わい。中でも、上質な鰻の蒲焼とそのタレで仕込んだ「うなぎ笹巻おこわ」は人気が高く、岸朝子氏のイチオシもこれである。考案したのは、女将の井上麗子さんだ。

 「佃煮屋として何かおもしろいものは作れないかと模索していて、これを考案しました」

 掌サイズの小ぶりなおこわで、香ばしく焼いた鰻の蒲焼と笹の葉の香りが食欲をそそる。冷凍保存ができるため、たくさん取り寄せておいて急な来客の時に出したり、ホームパーティーでフィンガースナックにするという人も多いとか。軽く温めて頂いてもよいが、自然解凍させてそのままでも充分おいしい。

 この他、長いままの鰻を丸ごと蒸し、熱いうちに骨を抜いて一口大の筒切にし、濃い目のタレで炊きこんで青竹に入れた「つつうなぎ」や、琵琶湖産の天然鰻と国産の養殖鰻、実山椒、湯葉、梅干に、酒・醤油・砂糖・みりん・蜂蜜を加えてじっくりと炊き上げた「う」など、うおいオリジナルの惣菜を多く取り揃えている。いずれも、酒のつまみに良し、白いご飯やお茶漬けのお供に良しである。

 「よく、老舗と言われますが、老舗という言葉はあまり好きではないんです。いつも新しいことを考えている方が、楽しいですから」

 その言葉通り、井上さんのアイディアでうおいは次々と新しいことに挑戦している。2年ほど前には、店の奥に飲食部門をオープン。カウンター形式のこじんまりとしたスペースの中で、井上家で昔から使ってきた古い食器棚や板戸などを上手に利用し、和モダンな空間を作り上げている。

 食事は基本的に予約制で、出されるのは鰻料理のみ。鰻丼もあるが、お薦めは「うおい御膳」だ。南部鉄の鍋にご飯と鰻の蒲焼、たっぷりの九条葱を盛って火にかけ、鍋が熱くなったところで長年継ぎ足してきたという特製のタレを注ぐ。近江米のご飯は一部は白いまま、一部は熱々のタレに浸り、また別の一部はおこげになる。これを、熱でちょっとしんなりしてきた頃合いの葱や香ばしい鰻と一緒に頬張るという趣向だ。鍋底に残ったおこげはお茶を注いでこそげて、最後まで頂く。鰻を知り尽くした専門店ならではの料理だ。ちなみに、現在「うおい御膳」で主に使用している鰻は、西三河一色産もしくは浜名湖産か四国産のものだ。

 もちろん、御膳というからにはこれ以外にも色々ついてくるわけで、琵琶湖に棲息する小魚「もろこ」や近江名物「赤こんにゃく」などが、小皿にちょこちょこっと乗せられて登場。琵琶湖産のしじみ汁も添えられる。食後にはアイスクリームとコーヒーが供される。コーヒーには隠し味で蜂蜜がほんの少しだけ加えられているが、甘いというほどのことはなく、むしろまろやかな風味が喉奥に残って清々しい。

 コーヒーに添えられるのは、井上さんの友人である三井寺力餅本舗製の干菓子。香ばしい麦落雁で、コクのあるコーヒーに実によく合う。この落雁にしても、蜂蜜にしても、地元近江の人々が作るものを積極的に使うようにしているのだという。井上さんとそんな話をカウンター越しに話しながら食事をしていると、時間が経つのもつい忘れてしまう。

 06年11月からは店を一部改装して、店舗2階に飲食スペースを移動させるという。これまでにも、最近話題を呼んでいる上方落語の寄席やミニ・コンサートを行なってきたが、今後は食事と共にイベントを楽しむことができる空間を充実させたいのだそう。新しいことを常に取り入れつつ、かつささやかに演出してみせる。老舗の余裕を感じる、と言いたいところだが、そんなことを言ったら井上さんに笑い飛ばされそうだ。

 余談ではあるが、店を出る時、ふと目にとまるものがあった。大きな容器に、ブラックバスがたくさん入れられていた。えり漁にかかった「招かれざる客」である。琵琶湖にもブラックバスのような外来魚が多く潜んでおり、うおいのように昔から琵琶湖と共に生きてきた専門業者さえも、なかなかの苦戦を強いられているようだ。

2007年1月22日に店舗を改装しリニューアル・オープン。2階に新しく飲食部門を設けました。

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